これまでの研究成果において、残留応力の大きなカーボン膜を作製することが可能になったため、残留応力を駆動力として利用した膜の構造緩和を行い、細孔サイズの制御を行った。その結果、製膜後の構造緩和により、膜厚の変化率(膨張率)を約0.2~0.8%まで変化させることに成功した。これにより、エタノール中のアゾベンゼン(分子量:182.2、分子幅:0.69nm)の阻止率が99.9~78.0%まで変化した。構造緩和によって膜内部の空隙率が変化したことに起因すると考えられ、圧縮残留応力の程度を制御することで、サブナノメートルの細孔を作り分けられることが示唆された。 さらに、プラズマの放電周波数制御(放電周波数を低周波数(50kHz)から高周波数(13.6MHz)に変化させて製膜実験を行った。低周波数(50kHz)のプラズマ放電では透過性の高いカーボン膜が得られていたが、高周波数(13.6MHz)のプラズマ放電を用いることで、より密な膜の形成に成功し、アゾベンゼンの阻止率が100%となる膜を作り分けることが出来た。また、段階的にガス密度を変化させることで、柔軟で基板との密着性に優れたベースレイヤーと緻密で分離性能が高いトップレイヤーを連続膜として形成することが出来ることを見出した。 さらに、原料ガスの組成およびプラズマのエネルギー密度を調整することで、無機多孔膜(アノード酸化ポーラスアルミナ、Anodisc)上に、直接プラズマCVDを行い、分離膜として使用可能な緻密なカーボン膜を成膜することが可能になった。これらの結果により、本研究課題の目標であった残留応力を利用した構造緩和による細孔制御と基材への密着性の改善の両立する材料設計指針の確立に着手することが出来た。
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