研究課題/領域番号 |
16K05927
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
長澤 尚胤 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 主幹研究員(定常) (00370437)
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研究分担者 |
岡 壽崇 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 助教 (70339745)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 多糖類誘導体 / 放射線架橋 / ハイドロゲル / 微細加工体 / 細胞接着性 / 生体適合性 / 植物由来 |
研究実績の概要 |
多糖類誘導体の水溶液やナノファイバー分散水溶液の試料濃度、金属塩の種類・添加濃度や照射温度などの調製条件を変化させ、高分子鎖の水和状態を制御した放射線誘起反応による高分子ゲル化挙動についてゲル分率や膨潤性などの物性により評価する。また、水和状態を把握できた試料中でのOHラジカルとの反応で誘起された高分子ラジカルの同定、減衰挙動を確認するとともに、得られたゲルの水和状態を熱分析や分光法等で評価し、ゲル材料の水和状態、構造と物性の関係を明らかにする。 本年度は、放射線照射によるカルボキシメチルセルロース(CMC)のゲル作製における、試料濃度、添加物の種類や濃度、照射温度などの調製条件による試料の水和状態を変化させて、放射線架橋反応によるゲル化挙動について検討する。詳細には5から50%濃度の濃厚水溶液系に調製し、照射前の水和状態について-100℃から室温(25℃)までの範囲でDSC測定により評価する。その結果、CMCの濃度が増加するにつれて、自由水が減少することが分かった。また、他の量子ビームとしてプロトンビームを照射してゲルの微細加工の可能性について検討した。ヒドロキシプロピルセルロース 、CMC、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコールの濃厚水溶液(10~50wt%) を調製し、TIARA のシングルエンド加速器からの3 MeVのプロトンビームを照射した。含水試験やゲル分率測定の他、顕微鏡観察により、ゲル構造体が形成していることを確認した。プロトンビームのスキャン形状を制御することにより、丸や半円、ライン等のゲル構造体を作製できる見通しを得た。また、吸着水(保持水分量)が多糖類よりも少ないポリアミド11の放射線架橋について、電子線照射により架橋構造が導入でき、融点以上でも熱変形しないことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DSC測定により自由水の変化を捉えることができたので、束縛水、中間水について、定性・定量するため、現在、測定条件の最適化を行っている。また、プロトンビームライティング法でゲル化するとともに微細加工体を作成できることも見出した。さらに、陽電子消滅法にて照射前後におけるゲルの自由体積空孔半径が測定できる見通しを得ている。
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今後の研究の推進方策 |
さらに詳細にDSC測定で確認した水和状態の異なった試料を作製する条件を選択し、放射線照射により水の分解生成物であるOHラジカルとの反応で生じる高分子マクロラジカルについてESR測定にて評価する。γ線や電子線照射を模擬した過酸化水素を添加した水溶液にUV光またはレーザー光を照射してOHラジカルを発生させる光学系を組んだESR測定装置を用いて、生成OHラジカルと反応して誘起した高分子マクロラジカル同定並びにラジカル減衰挙動を評価し、初期のゲル化挙動について検討する。また、セルロースやキチン・キトサン、CMCなどの多糖類を原料として調製されたナノファイバー分散水溶液を用いて、水和状態の部類として束縛水、中間水、自由水の量をDSC測定により評価するとともに、水和状態を把握した系において、温度制御しながらγ線を照射する。水との親和性が高い状態になっていると予想されるナノファイバー分散液のγ線照射した水和状態挙動や動的粘弾性測定により高分子鎖の分子運動性の変化について評価し、水和状態とゲル化挙動の関連性を明らかにする。また、得られたゲル材料のナノ空間構造解析として陽電子消滅寿命法、X線散乱法や赤外・ラマン分光法測定を行うことで得られた照射前後におけるゲルの自由体積空孔半径変化、高分子のコンフォメーションやゲル中の水の構造についての総合的な解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
弊研究所においてESR装置の引越作業により測定できなかったため、ESR測定に使用する石英製試料管の購入をしなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
多糖類液体は非常に粘ちょうで洗浄が困難であるため、液体用ESR管に予備購入に使用する。陽電子測定用の線源予算を次年度と合わせて使用する予定である。
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