研究課題/領域番号 |
16K05928
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
會澤 純雄 岩手大学, 理工学部, 准教授 (40333752)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 層状複水酸化物 / 抗がん剤 / ドラッグデリバリーシステム / 急速混合法 |
研究実績の概要 |
従来の抗がん剤による化学療法は,がん細胞だけでなく正常細胞にも作用するため副作用を引き起こすという問題点がある.一方,ドラッグデリバリーシステム(DDS)は,必要なときに,必要な場所へ,必要な量の薬剤を標的部位へ送達し,薬理作用を高め,副作用を低減させることが可能となり,とくに化学療法において応用が期待される方法である.がん組織へ集中的に抗がん剤を運ぶためには,運ぶ粒子の大きさが鍵となり,その大きさを50~200 nmに制御する必要がある. 高い生体親和性および低細胞毒性をもつMg-Al系層状複水酸化物(LDH)はDDSに応用できる材料として注目されている.しかし,LDH粒子の大きさの制御は,凝集体を形成するため難しい.そこで平成28年度は,数十nmのLDHを合成できる急速混合法を用いて抗がん剤/LDHを合成し,その粒径におよぼす合成条件の影響について検討した.また,合成した抗がん剤/LDHの細胞毒性についても調べた. 抗がん剤として5-フルオロウラシル(5-FU)を用い,5-FU/LDHの合成を試みた.各種機器分析結果から,5-FU/LDHの構造,組成式を明らかにすることができ,その粒径を目標値である100~200 nmに制御できる合成条件を見出した.また,5-FU/LDHをHeLa細胞(ヒト子宮頸がん由来)に対する毒性を調べた結果,5-FU/LDHの毒性は,負に帯電した細胞膜へ正に帯電したLDHが吸着することで細胞内にLDHが取り込まれ,細胞内においてLDHから5-FUを大量に放出したため5-FUの輸送効率が高くなり,5-FUに比べ約10倍向上することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
急速混合法による粒径を50~200 nmに制御した5-フルオロウラシル(5-FU)/LDHの合成方法の確立を目標に検討を行った結果,その目標をおおむね到達できる合成条件(粒径100~200 nm)を見出すことができた.各種分析により5-FU/LDHの構造,組成式を明らかにすることができ,これらの結果は細胞へ添加した際,薬剤を細胞内へ運ぶドラッグキャリアに展開可能なナノ粒子であることを示している. これまで培地中へLDHを分散させた際,LDH粒子は培地中に含まれるたんぱく質などの影響により凝集体を形成する傾向が見られた.急速混合法で合成した5-FU/LDHの培地中における分散性は,粒子間にはたらく電荷の反発により凝集せず,分散性を保持したことが示された.培地中での分散性は細胞内への抗がん剤の輸送効率に大きく影響する.そこで,5-FU/LDHの細胞毒性を調べた結果,細胞増殖抑制効果は5-FUに比べ約10倍近く向上する傾向が観察できた.以上の結果から,本研究は年度内の目標を達成しており,おおむね計画通りに進行している.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降は,前年度に得られた知見を活用し,抗がん剤としてメトトレキサート(MTX)を用い,MTX/LDHの合成と粒径制御ならびにその細胞毒性を検討する.昨年度作製した5-FU/LDHの細胞毒性は5-FU単独に比べ約10倍程度向上する結果を見出した.しかし,細胞生存率は約40%と比較的高いという課題が残っている.この原因はLDHへの5-FUの取り込み量が影響していると考えられる.そこで,抗がん剤を5-FUからMTXに変更することにより,MTXのLDHへの取り込み量は二価のアニオンであるため5-FUよりも増大し,細胞生存率の低下を促進すると予想される. 一方,上述の研究の進行状況にもよるが,蛍光色素を取り込ませた蛍光色素/LDHの合成も挑戦する予定である.蛍光色素/LDHは共焦点レーザー顕微鏡を用いることで,細胞内におけるLDHの動態,すなわちLDHの溶解,蛍光色素の放出,pH緩衝作用に伴うプロトンスポンジ効果の発現を可視化できると考えている.これらは,細胞へのLDHの移行におよぼす粒子の大きさの影響,細胞内におけるLDHからの薬剤の放出挙動,さらに細胞増殖抑制効果など,これまで明らかになっていない成果を得られると予想している.
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次年度使用額が生じた理由 |
国内の学会へ参加する予定であったが,都合によりキャンセルしたため.
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次年度使用額の使用計画 |
国内外の学会参加(富山,京都など)に利用する計画である.
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