化学療法はがん治療のための手段の1つであるが,がん細胞の薬剤耐性獲得によって再発に繋がるという問題点がある.一方,層状複水酸化物(LDH)は,高い生体親和性や薬剤保持能などを持つことから,薬剤を患部へ輸送するドラッグキャリアに利用可能な材料として注目されている.血中に投与したドラッグキャリアが循環し,がん組織へ集積させるためには,その大きさを100-200 nmに制御する必要がある.しかし,LDH粒子の大きさの制御は,凝集体を形成するため難しい.平成30年度は,抗がん剤として5-フルオロウラシル(5-FU)を用い,5-FU/LDHの合成を試みた.5-FU/LDHの分散性に及ぼす分散剤の影響を調べるために,5-FU水溶液に所定濃度のポリエチレングリコール-2000(PEG)を混合し,同様の方法で5-FU/PEG/LDHの合成も検討し,その結晶構造や粒径,5-FUの取り込み量に及ぼす合成条件の影響について検討した.さらに,5-FUのがん抑制能を向上させるフォリン酸を同時取り込んだ5-FU/フォリン酸/PEG/LDHの合成も調べた. XRDおよび組成分析の結果より,5-FU/LDH,5-FU/PEG/LDHおよび5-FU/フォリン酸/PEG/LDHの層間へ5-FUが取り込まれ,PEGやフォリン酸はLDHの表面に吸着していると考えられた.それらの粒子サイズは,1518 nm,197 nmおよび201 nmであり,PEGやフォリン酸を加えることにより目標の粒子の大きさに制御することに成功した. 5-FU/LDH,5-FU/PEG/LDHおよび5-FU/フォリン酸/PEG/LDHのがん細胞に対する増殖抑制効果を調べた結果,5-FU/LDH > 5-FU/PEG/LDH > 5-FU/フォリン酸/PEG/LDHとなり,粒子の大きさには影響されず,5-FUの含有率に依存することがわかった.期待した増殖抑制効果は観察されなかったが,in vitroとin vivoでは実験環境がことなるため,各試料のin vivoにおける検討が今後必要である.
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