研究実績の概要 |
平成28年度は,界面構造制御手法と光電気化学反応時における結晶構造のその場観察手法を初年度に重点的に開発し,技術基盤を構築することを初期の達成目標として,以下の3項目を実施した.(i)電極/電解質モデル界面の構築,(ii)構造評価,(iii)光電気化学特性評価.(i)では,アナターゼ型酸化チタンおよびα型酸化モリブデンについて,表面粗さが1 nm程度と平滑で,膜厚が50 nmに制御した電極薄膜をパルスレーザー堆積法で作製することに成功した.(ii)では,得られた薄膜が単一配向を有するエピタキシャル膜であること,電気化学的リチウム脱挿入活性を有することを確認した.酸化チタン膜について,ホール測定,容量測定,吸収・光電子分光測定から,電解液との界面における構造をエネルギー準位図として表すことに成功し,リチウム脱挿入反応時に酸化チタン膜界面では蓄積層が形成されることがわかった.(iii)では,光電気化学セルを自作,回折計と組合せた実験系を構築することで,光照射時における充放電反応特性および結晶構造評価を可能とした.その結果,光照射の有無によらず反応速度がリチウム脱離・挿入過程で異なること,光照射時には反応が促進されることを電気化学・構造の両面から明らかにした.光照射時のイオン脱挿入過程を界面構造のその場観察から調べた例はほぼなく,反応解析と材料開発に有用な手法を確立できた.次年度は,波長依存性,熱効果を考慮した詳細な光電気化学特性・界面構造評価を進めることで,光エネルギーによるリチウム貯蔵放出に深く関わる因子の抽出を目指す.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は, 【1】インターカレーション電極の界面構造制御,【2】光インターカレーション現 象の実証,【3】光充電の可能性追求を目指して,以下を推し進めている.(i)電極/電解質界面の構築, (ii)構造評価, (iii)光電気化学特性評価, (iv)構造変化のその場観察, (v)界面反応機構解明, (vi)デバイス形態の模索.このうち,平成28年度は主に(i)-(iv)について実施,測定手法を確立したうえで,29年度以降に(v)(vi)を加速し,現象開拓を目指すことを計画した.平成28年度は,「研究実績の概要」のとおり,現象の実証に適したモデル電極/電解質界面を作製したうえで,光電気化学特性,界面構造変化の観測技術を構築した.研究開始当初は光応答性が低く,解析に適するデータ取得が課題となることは,実施計画で予想していたとおりであり,信号を増幅できる測定系の構築も進め,光電気化学応答も十分に観測できている.一方,界面構造のその場観察実験においては,実験室X線光源を用いた場合にも,照射時に界面での副反応が示唆され,29年度以降に現象解析を進めるには,構造観察手法の改善を要する可能性が示唆されている.以上より,「おおむね順調に進展している」.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に構築した実験系を活用して,研究実施計画で示した実施項目(v)界面反応機構解明, (vi)デバイス形態の模索について,平成29年度以降は重点的に取り組む.具体的にはいずれも研究実施計画で示した実施項目であり,これらを着実に進めることで目的が達成されると考える.(v) 界面反応機構解明:界面構造観察で作成したエネルギー準位図と光インターカレーション活性の相関を解析することで,光インターカレーション反応の検証および材料探索に必要な指針を明らかにする.平成28年度に明らかにしたX線照射時の固液界面での副反応については,中性子線を用いた構造解析,および固体電解質を用いた固固界面の構築で対応できる.するため(vi) デバイス形態の模索:光インターカレーションを利用した蓄電池の可能性を検証する.光電極の光起電力,対極の電極反応電位,反応過電圧を評価の基軸として,光充電可能な電極の組み合わせを模索する.対極には金属,酸化物電極(インターカレーション電極)を,電解質には電位窓が広く酸化還元耐性に優れた有機電解液を検討する.
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