研究課題/領域番号 |
16K05933
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西 正之 京都大学, 工学研究科, 講師 (50402962)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 金ナノ粒子 / 無電解 / シリコン / 集束イオンビーム |
研究実績の概要 |
シリコン基板に集束イオンビームや超短パルスレーザー、あるいはダイヤモンドペンで傷をつけた後、同基板表面に塩化金酸水溶液(塩化金(III)酸四水和物を純水に溶かしたもので、他の添加物は含まない)を接触させると、傷に選択的に金ナノ構造が成長する。以前、我々のグループが報告し、本研究課題では、その詳細な成長メカニズムを研究している。シリコン表面において、無電解で金を成長させる際には、毒性が非常に高いフッ化水素酸(シリコンを溶かす作用がある)が必ずといってよいほど用いられるが、本手法ではそれを用いないところに特徴がある。さらに、非常に単純な反応系であり、金成長部を特定できることから、半導体/溶液界面での電子移動を基礎的に研究するための良い対象となる。H28年度では、金成長後のシリコンの状態・分布について飛行時間型二次イオン質量分析法を用いて評価した。H29年度では、光が金成長に及ぼす影響について検証した。光として蛍光灯(スタンド型)を選択し、シリコンまでの距離を変化させ、パワーメータを用いて光の強さを管理した。その結果、真性シリコン上では、金成長量が増加したが、ドープ量の多いN型シリコン上では、蛍光灯を近づけることによる金成長量変化はほとんどなかった。我々が注目した結果は、N型シリコン上での金成長量が、蛍光灯を近づけない場合での真性シリコン上の金成長量を下回ったことである。この結果は、以下の「今後の研究の推進方策 等」で詳しく述べるが、当初の予想と反するため、この結果の原因を今後明らかにすることで、金成長メカニズムについてさらに理解を深めることができると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シリコン表面での局所選択的な金成長法について、我々の手法では、シリコン表面の自然酸化膜が集束イオンビーム等により局所選択的に取り除かれることで、その場所からシリコンの電子が溶液中の金イオンに移動し、金が成長する。この成長において電子供給後のシリコンの状態・その分布を明らかにすることが主な課題であった。H28年度では、当初の予定ではH29年度に予定していたN型シリコンに対する飛行時間型二次イオン質量分析を前倒しで実施した。そして、同結果と金成長量の定量評価結果との比較により、金成長後のシリコンの状態・分布を考察した。H29年度では、当初計画にはなかったが、光が金成長に及ぼす影響について検証した。その理由は、我々の手法では、シリコンから溶液中の金イオンに電子が移動することで金が成長するため、光励起による伝導電子の増加が金成長量を増やす可能性が予想されたためである。結果として、真性シリコン上では、光により金成長量が増加したが、N型シリコン上では、以下の「今後の研究の推進方策 等」に述べる通り、現状では説明できない結果が得られた。したがって、その結果を解明することで本手法における金成長メカニズムをさらに理解することができると期待している。 一方、我々の手法を用いて、市販の原子間力顕微鏡用シリコン探針の先端に選択的に金ナノ構造を成長させる上で塩化金酸水溶液への添加物の効果を調べる研究においては、金ナノワイヤーを合成する際に使用される界面活性剤CTABを検討したが、現状では、金ナノワイヤーは得られていない。成長する金ナノ構造サイズを抑制するという観点では、塩化ナトリウムの方が簡便で用いやすいことを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度では、金成長過程においてシリコン基板に蛍光灯(スタンド型)を積極的に近づけることで金成長量にどのような影響があるかを調べた。その結果の特徴として、ドープ量の多いN型のシリコンに蛍光灯を近づけても金成長量の増大はほとんどなく、その成長量は、同様の照明がない場合の真性シリコン上での金成長量よりも少なかった。蛍光灯を用いた実験については、光励起による伝導電子の増加が金成長量を増加させる可能性を検証する目的で行ったものである。そのため、蛍光灯の照明により真性シリコン上で金成長量が増えたことは矛盾せず、また、ドープ量の多いN型シリコン上で金成長量がほとんど変わらなかったことに関しても、金成長に対して十分な量の伝導電子があったため、蛍光灯によるアシストが意味をもたなかったという見方をすることで説明できるかもしれない、と考えたが、後者の説明は、蛍光灯による積極的な照明がない場合の真性シリコン上での金成長量が、ドープ量の多いN型シリコン上での金成長量よりも多いという結果と矛盾する。したがって、この結果を説明できれば金成長機構についてさらに理解が進むことから、H30年度では、いくつかの考えられる因子を検証する。 一方、市販の原子間力顕微鏡用シリコン製探針の先端に選択的に金ナノ構造を成長させる研究に関しては、添加物として金属塩に的を絞って金ナノ構造制御を進める予定である。
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