研究実績の概要 |
太陽光や風力発電をエネルギー源とした水の電気分解(2H2O→2H2 + O2)は炭素の排出を伴わない理想的な水素製造プロセスだが、アノードでの酸素発生反応(Oxygen Evolution Reaction, OER)の過電圧が大きく、エネルギーロスの主因になっている。太陽光や風力を効率よく化学燃料(H2)に転換するには、最も活性と言われている貴金属酸化物(RuO2やIrO2)並みの過電圧(η=300 mV)でOERが進行する堅牢な酸化物触媒の開発が必須である。 本申請課題は、二酸化マンガンのOERに対する触媒活性の向上を目ざす研究である。二酸化マンガンは4価のマンガンに由来する酸化触媒能を有するが、導電性が低いため、単体ではOER活性をほとんど示さない。そこで、本研究では、(i)二酸化マンガンの析出段階に正に帯電させたグラフェンコロイドを共存させ、両者の交互積層構造を構築すること、(ii)電析後の層状二酸化マンガンの層間に遷移金属イオンをイオン交換法により導入すること、によってOER活性の顕在化を試みた。生成した複合薄膜の構造はX線光電子分光法、X線回折法、TEM、SEMなど各種分光法を使って詳細に調べた。OER活性に対する触媒活性の評価はアルカリ水溶液中でのリニアスイープボルタンメトリーによる。すなわち、OER開始に要する過電圧、ターフェル勾配、OER電流密度を測定した。その結果、(i)グラフェンをインターカレートした層状二酸化マンガン、(ii)コバルト、ニッケルをインターカレートした層状二酸化マンガンにおいて顕著なOER触媒活性の向上が観察された。反応前後のXRDおよびXPSより、コバルト、ニッケルは結合をもたない"シングルイオン触媒"として振舞うことが示唆された。
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