研究課題/領域番号 |
16K05942
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
藤田 渉 成蹊大学, 理工学部, 教授 (50292719)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 水酸化物 / 磁性 / フラストレーション / 水素結合 / 磁気相転移 / 結晶構造 / 構造相転移 |
研究実績の概要 |
様々な塩基性銅化合物およびαヒドロキシ酢酸金属錯体の合成、構造同定および磁気測定を行い、(1)水素結合の特性を活かした外場応答型磁性体「Hydrogen Bonded Magnet」の探索を行った。併せて、(2)幾何フラストレーション磁性体の候補として着目している銅水酸化物誘導体について、中性子線磁気構造解析を行うべく、単結晶の育成にトライした。 (1)水素結合における水素原子の位置を温度、圧力、電場などで移動させることが可能である。水素結合を介した磁気ネットワークを有する磁性体では、水素原子の位置の変位に伴う小さな構造変化がトリガとなって、磁性金属イオン間の軌道間相互作用に変調が生じ、電場に対して大きな磁気応答を示す磁性体を構築できる可能性がある。本研究では、水素結合を有する塩基性銅化合物を合成し、水素結合が関与する構造相転移の有無を調べた。有機スルホン酸イオン(ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、およびエチルベンゼンスルホン酸など)を含む数種類の銅水酸化物について、DSC測定を行った。その結果。ベンゼンスルホン酸を含む誘導体において、175 Kおよび229 K付近に構造相転移と思われる吸熱を観測した。この他、有機スルホン酸を有する銅水酸化物やαヒドロキシ酢酸を配位子に有する配位高分子金属錯体の合成を試みた。 (2)本研究では銅水酸化物のうち、Aとしてギ酸イオンを含む塩基性ギ酸銅に着目した。塩基性ギ酸銅は組成の異なる3種類が知られている。本研究では、Cu2(OH)3(HCOO)の中性子線回折実験を行うための大きな単結晶試料作成を試み、数ミリ角の単結晶育成に成功した。また、構造未知であったCu3(OH)4(HCOO)2の単結晶育成にも初めて成功し、結晶構造解析と磁気測定を実施した。調製条件を変えることで、それぞれを容易に作り分けることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究により、Hydrogen Bonded Magnetの第一歩となる、構造相転移を示す銅水酸化物の存在が明らかになった点は大きい。現時点では、即、目標の達成につながるわけではないが、銅水酸化物が有力な候補物質であることを実証できたと考えている。また、塩基性ギ酸銅の構造研究を行った際、構造相転移を有さない物質でも電場による磁性制御の可能性があることに気づいた点は非常に大きい。塩基性ギ酸銅の結晶は対称心のない空間群に属することから、圧電性を示すと考えられる。圧電効果により、磁気相互作用パスの構造変化が期待でき、磁気変調を引き起こすことが期待できる。今後の研究方針に新しい可能性が示されたものと考えている。 また、これまでの懸案であった、銅水酸化物の大きな単結晶の作成に成功したことで、中性子線構造解析への道が開かれた。この物質群の磁気的性質について、スピン配列に関する情報を得ることが可能となると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、様々な塩基性銅化合物およびαヒドロキシ酢酸金属錯体の合成、構造同定および磁気測定を行い、Hydrogen Bonded Magnetや幾何フラストレーションの観点から、物質探索を行う。 ベンゼンスルホン酸を有する銅水酸化物は構造相転移を示すことを明らかにした。この物質について、相転移後の結晶構造を明らかにしたい。また、重水素化を行い、構造相転移温度がどのくらい変わるかを見極める。大きな重水素置換効果がある場合は、結晶に電極を付け、電場下での磁気測定を実施したいと考えている。また、当年度大きな単結晶の作成に成功した塩基性ギ酸銅は温度では構造変化を示さないが、対称心を持たないことから、圧電効果を示すことが期待される。塩基性ギ酸銅を初めとした、対称心のない結晶について、電場下での磁気測定を是非実施したい。 塩基性ギ酸銅の大きな単結晶を用いて、中性子線磁気構造解析を実施し、この物質が示す磁気的性質に対する理解を深めるとともに、フラストレーションの関与についても知見を得たい。なお、現時点では中性子回折実験のマシンタイムを確保できていない。
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次年度使用額が生じた理由 |
最後に旅費の立て替え払いで調整したが、事務側が手違いをしたためと思われる。
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