研究実績の概要 |
本研究では、 (1)水素結合の特性を活かした外場応答型磁性体 「Hydrogen Bonded Magnet」の探索と、(2)幾何フラストレーション磁性体の候補である銅水酸化物誘導体の合成および物性探索を行った。 (1)本研究では、水素結合におけるプロトンの状態と磁性とが連動して、温度、圧力、電場といった外部刺激に対して大きな応答を示す磁性体の開発を目指している。このようなコンセプトのもと、酒石酸(L-(+)-, D-(-)-およびmeso-)を用いて、対称心の無い配位高分子錯体の合成を試みた。 L-(+)-誘導体の試料合成は従来、水熱法で行われていたが、本研究では、拡散法により調製を試みたところ、いずれの試料についても結晶の育成に成功した。これらについて、結晶構造解析を行ったところ、新規物質であるD-(-)-誘導体はL-(+)-誘導体と同じ組成であり、対称心のない空間群P21(格子定数はL-(+)-とほぼ同じ)であり、D-(-)-誘導体の結晶はL-(+)-誘導体の光学異性体であった。meso-誘導体は対称心のある空間群であるPbcaであった。D-(-)-誘導体とmeso-誘導体とは異なる原子配列であったが、いずれも酒石酸イオンのカルボキシレートが銅イオンを架橋して、1次元磁気ネットワーク構造を形成していた。 これらの物質について、室温から2 Kまでの磁気測定を行なった。L-(+)-誘導体の磁気パラメータは報告値とほぼ同じg = 2.21, 2J/kB = +2.06 Kであった。L-(+)-誘導体の対掌体であるD-(-)-誘導体は、g = 2.18, 2J/kB = +2.46 Kであった。meso-誘導体は全温度領域でほぼCurie的挙動を示した(g = 2.16, 2J/kB = +0.07 K)。極低温領域の交流磁気測定を行ったところ、L-(+)-誘導体は0.33 Kで、一方、meso-誘導体はさらに低い0.23 Kで磁気異常が観測された。これらの結晶について、電場印加下での磁気測定を行い、磁気変調効果を検討する予定である。 この他に本研究では、(2)新規の銅水酸化物を合成し、構造決定、磁気測定を行った。
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