研究課題
平成28年度は、主に有機ビラジカル分子Ph2-IDPL (以下IDPL)の単結晶作製条件の最適化を行った。特に、再結晶に使用する良溶媒と貧溶媒の組み合わせや比率などの諸条件の探索を行い、これまでよりサイズの大きな針状のIDPL単結晶の作製を試みた。さらに、電界効果トランジスタ(OFET)の半導体層としての利用に適した板状のIDPL単結晶の作製のため、気相からの結晶成長が可能な装置の製作を行った。具体的には、石英でできた二重の円筒形の炉を持ち、比較的高温となるIDPLの昇華温度での稼働が可能なトレインサブリメーション装置の設計、製作を行った。作製した装置は、現在、温度調節機構の調整や不活性ガスの流量の設定などの作業を行っている段階である。さらに、本研究では、通常の有機半導体に比べて強い分子間力を持つ有機分子を利用したOFETの作製と電子状態の解明を課題としている。本年度は、その関連物質として半導体的特性を示す(diC8-BTBT)(TCNQ)錯体の結晶性薄膜の作製と、その電子状態の解明も行った。(diC8-BTBT)(TCNQ)錯体は、真空蒸着膜中でも強い分子間力によって、容易に結晶化することが知られている。本年度は、(diC8-BTBT)(TCNQ)錯体の結晶性薄膜を作製し、光電子分光と逆光電子分光を用いた実験から、ドナー分子diC8-BTBTとアクセプター分子TCNQの電子構造が、薄膜中で強い分子間力(電荷移動)を通して錯体を形成することで、どのように再構成されるのかを明らかにした。また、(diC8-BTBT)(TCNQ)薄膜が大気中でも安定なn型のOFET特性を示す要因についても議論を行った。これらの研究成果は、Organic Electronics誌にて発表した。
2: おおむね順調に進展している
実験計画は順調に進んでおり、これまでに、IDPLの電子状態に関する研究成果や関連物質に関する研究成果も上がっている。そのため、研究課題の進捗状況としては、おおむね順調に進展していると言える。平成28年度は、IDPL 溶液からの再結晶による単結晶の育成方法の確立を目標としていた。再結晶の最適条件の探索を行い、大きなサイズの単結晶を得ることができている。一方、再結晶の最適条件の探索は現在も継続して行っているが、得られる単結晶の質が以前に比べて劇的に向上するまでには至っていない。そこで、平成28年度の途中からは、溶液からの単結晶育成と並行して、気相成長を行うことができる新しい装置を立ち上げ、平成29年度以降は、気相からの単結晶育成も行えるようにした。
平成29年度以降は、平成28年度に作製した装置を用いて育成したIDPL単結晶などを用いたOFETの作製、評価を行う。現在、OFET作製、評価装置の設計を行っている。さらに、光電子分光を用いて、IDPL単結晶で実現していると考えられる、広い分散幅を持つエネルギーバンド構造の直接観測を行う。
研究の進展に伴い、当初計画していた物品の購入予定に変更が生じた結果、差額が生じたため。
FET作製用真空チャンバーの作製のための物品費として使用する予定である。
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Organic Electronics
巻: 39 ページ: 184-190
http://dx.doi.org/10.1016/j.orgel.2016.10.005
Physical Review B
巻: 94 ページ: 155426-1-9
10.1103/PhysRevB.94.155426
http://kanai-tus.jp/