本年度は,はく離が発生する現象を完全に抑制するためのダイヤモンド皮膜の合成条件をさらに検討し,Ti基板上に燃焼炎によりダイヤモンド皮膜の合成を行った.ここで,合成中の基板表面温度を低下させ,合成中の温度を一定としてダイヤモンド皮膜の合成を行った.また,ダイヤモンドを合成する前にTi基板の前処理として基板表面のスクラッチング処理を施し,基板表面の粗さを変化させ合成を行った.その結果,はく離が発生する現象が確認されず,はく離を完全に抑制できる条件を確認した.この際,基板表面の粗さが界面はく離に影響を与えていることがわかった.さらに,燃焼炎の白心から基板表面までの距離等の合成条件も変化させ合成を行った.この際,はく離が発生する現象は確認されず,また,合成された皮膜の結晶に影響を及ぼすことがわかった.以上のことより,燃焼炎法によりTi基板上にダイヤモンド皮膜を合成した際,はく離を完全に抑制することが可能となり,その合成条件を求めることができた.また,合成皮膜を走査型電子顕微鏡等によりその結晶形状等の特性を評価し,高純度アセチレン-酸素ガスに窒素を添加したガスを用いTi基板上にナノ結晶ダイヤモンド皮膜を合成できることを確認し,その最適値を得ることができた. また,引っかき試験装置を用いてナノ結晶ダイヤモンド皮膜を施したTi基板の引っかき試験を行い,ダイヤモンド皮膜を施したTi基板の接合強度の評価を行った. さらに,実際に使用されているTi製歯科用インプラントに,現在まで得られた最適な合成条件によりナノ結晶ダイヤモンド皮膜の合成を行った.しかし,歯科用インプラントが今までの試料と形状が異なり小さくなることで温度が上昇しすぎ,十分な冷却を行うことができず,ダイヤモンド皮膜合成までは至らなかった.よって,さらなる冷却効率の向上をはかりダイヤモンド皮膜合成を行う必要があることがわかった.
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