研究課題/領域番号 |
16K05964
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
黒田 充紀 山形大学, 大学院理工学研究科, 教授 (70221950)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 強化機構 / 結晶粒微細化効果 / 転位強化 / バウシンガー効果 / 粒界効果 / アルミニウム / 銅 |
研究実績の概要 |
昨年度の研究で、巨大ひずみ加工(本研究ではEqual-channel angular pressing = ECAPを利用)を施した金属材料における著しい降伏強度増大の主要な要因は、結晶粒微細化効果ではなく、転位強化であることがことが強く示唆された。平成29年度の研究では、まず、実験データを詳しく分析し、定量的な知見を導出した。巨大ひずみ加工を受けた工業用純アルミニウムの降伏応力を、線形加算則を仮定して粒径強化分と転位強化分に分離した。粒径強化分を縦軸に、粒径のマイナス2分の一乗を横軸に取ってプロットしたところ、ほぼ従来知られているHall-Petch直線に乗ることがわかった。これは結晶粒をミクロンサイズまで微細化しても、従来知られている粒径強化を上回る効果は得られないことを示している。結果として、巨大ひずみ加工を受けたアルミニウムにおいては、粒径強化に比べて転位強化が圧倒的に支配的であることが定量的に明らかなった。さらに、巨大ひずみ加工により限界まで結晶粒を微細化した材料に焼鈍を施して粒を粗大化させる過程において、従来のHall-Petch関係を上回る粒径由来の強化が発現することも新たに見出した。これらの知見が他の金属にも適用可能か確認するために、無酸素銅に対して同様なアプローチで研究を行った。その結果、銅においてはさらに転位強化が優勢であることを示唆する結果を得た。ただし、結果の再現性を保証するためには今後さらなる追加のデータが必要である。 加えて、別種の巨大ひずみ加工である繰り返し重ね接合圧延(ARB)を施したた工業用純アルミニウムの強化機構を調べたところ、粒径強化と転位強化では説明できない第3の強化機構が存在する可能性が示唆された。さらに、巨大ひずみ加工材に変形を与えた後、その変形を固定すると、著しい応力緩和(導入された応力の減少)が観察されることも見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べた新たに得られた知見により、研究計画書を作成した当初の理論構築の計画は変更を余儀なくされた。しかしながら、次々と見出された微細結晶粒材料に対する知見は、学術的にも今後の材料開発に対しても大変有益であると考えている。従来、微細結晶粒材料は「結晶粒の寸法が小さいから」強度が高いと信じられてきた。研究代表者も当初はこれを大前提と考えていたが、本研究では、結晶粒のサイズ効果はむしろ強度に対してはマイナーであり、支配的なのは転位強化であるという結果が示された。現在、種々の角度からこの知見の検証を進めており、進捗状況は概ね順調と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、巨大ひずみ加工による降伏応力の増大の主要因は転位強化であることを示した。昨年度には、粒界は転位運動の大きな障害となっていない可能性を強く示唆した。これら2つの知見は従来の材料科学界にお ける一般的な理解とは相容れないものであり、研究代表者らの当初の予想とも異なるものであった。今後の研究においては,研究開始時に計画していた数理モデルの構築の以前に、今回の実験で示唆された事柄のの追試確認が何よりも重要である。これまでは、主として工業用アルミニウムと一部に銅を用いてきたが、上記と同様な知見が他の種類の金属でも成立するかを調べることは急務である。H30年度には、アルミニウム合金系材料を対象として、これまで得られた新しい知見の適用範囲を確認したい。また、研究の進捗を見ながら鉄鋼材料も視野に入れて研究を展開したい。
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