本研究は、代表者が提案するミクロンスケール塑性論をベースに、それを数理的に粗視化した実用理論を開発し、寸法効果を考慮した材料力学の普及を進める基盤を作ることを目的としている。第一に、ミクロンスケール塑性論に残っていた問題点(内部界面・粒界の役割の解明)を解決することを目指した。このために、工業用純アルミニウムと無酸素銅の微細結晶粒材料を、巨大ひずみ加工の代表的手法の一つであるECAP (Equal Channel Angular Pressing) 法で作製した。それらの引張/圧縮反転負荷試験から得られたバウシンガー曲線を基に、粒界とその付近に発生する内部応力の役割を推定したところ、粒界は転位運動の大きな障害物となっていない可能性が示された。第二に、巨大ひずみ加工材の転位密度を測定したところ、強度増大の主要因は転位による強化であることが強く示唆された.当初は「高強度発現の主要因は粒径である」と予想していたが、一連の実験結果はこれとはとは大きく異なる知見を与え、当初考えていたモデル化の方針変更が必要となった。さらに、巨大ひずみ加工材には著しいひずみ速度依存性が付与されていることも新たに判明した。 平成30年度は、上記の知見に基づき、巨大ひずみ加工材において観察される高い強度は不均一に分布している転位密度の平均値に対応するものとし、粒径によらないほぼ一定のバウシンガー効果の発現機構を転位密度の空間分布に求めるモデルを作成し、これにより実験結果を説明できることを示した。しかしながら、大きなひずみ速度依存性を表現できるまでには精密化されていない。 当初の目標では、ミクロンスケール塑性論を数理的にさらに粗視化した巨視的モデルまで整備する予定であったが、これについては、ひずみ勾配塑性論に基づく3次元解析コードを開発して不均質材料の強化機構を検討する段階までに留まり、今後に課題が残った。
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