4H-SiC半導体素子は、次世代パワーデバイスとして国際的に競争が盛んな分野である。しかしながら、内在する結晶欠陥(転位と積層欠陥)が寿命に影響を及ぼし、欠陥の抑制が急務である。欠陥を減少させるために、基板上にエピタキシャル膜を形成し、底面転位を貫通転位に変換する底面転位―貫通転位変換プロセスが採用されているが、表面応力・鏡像力などが重複して働く複雑な系であることから、そのメカニズムは不明なである、本研究では、薄膜成長中の表面拡散を取り入れた第一原理―古典分子動力学―転位動力学マルチスケール解析の体系化を行い、底面―貫通転位変換現象のメカニズム解明を目指す。平成29年に、表面近傍では、ある活性バリアを持って、部分転位(BPD)が収縮すること。収縮した完全転位は速やかにTEDに変換されることがわかった。平成30年度は、平成29年度に行ったBPD-TED変換過程の位相空間サンプリング法のさらなる体系化を行うと同時に、変換が行わない条件についての解析を行った。分子動力学計算を行うと、BPD-TED変換が必ず起こるわけではなく、転位が不動化し、変換が起こらないケースが発見された。変換が起こるケースは、転位により表面近傍に圧縮応力がかかる際に、表面から原子が飛び出す上昇運動が起こり、点欠陥が大量に作られ、点欠陥と転位が絡み合い不動化が起こる現象を見出した。表面近傍に圧縮応力がかかるケースは、転位芯原子種と表面原子種が同じ時に生じる。実験との比較による仮説の検証を今後行いたい。成果はJapanese Journal of Applied Physicsに投稿したが、2019年4月現在審査中である。
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