研究課題/領域番号 |
16K05972
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
坂本 二郎 金沢大学, 新学術創成研究機構, 教授 (20205769)
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研究分担者 |
北山 哲士 金沢大学, 機械工学系, 教授 (90339698)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生体力学 / バイオ材料力学 / 最適設計 / 計算力学 / データベース |
研究実績の概要 |
平成29年度は,前年度の研究を承け,(1) 生物形態データベースの構築の継続と,(2)生物形態データベースに基づく最適設計手法の開発を行った.(1)(2)の詳細を下記に示す. (1) 生物形態データベースの構築:平成28年度に引き続き,多種多様な生物の構造データを効果的に提示できる生物形態データベースの構築を推進した.既に確立した骨形態モデルを作成する体制を利用して,脊椎動物の骨を対象としたデータ蓄積をさらに進めた.それと同時に,昆虫や甲殻類の外骨格も対象としてその形態モデルを作成し,データベースに新たに追加した.動物資料については,昆虫や甲殻類についても前年と同様に石川県自然史資料館の協力を得て,そのサイズに応じ医療用CTもしくはμCT装置を用いてCT画像を蓄積した.骨と外骨格の両方とも,骨強度解析ソフトウェアMechanical Finder(RCCM社製)を利用し,得られたCT画像から3次元形態モデルを構築し,その一部に対してCAEシミュレーションを行い力学特性を評価した. (2) 生物形態データベースに基づく最適設計手法の開発:平成28年度はメッシュマッチング法(MM法)を用いて構造設計のためのモデル作成法の開発を実施したが,平成29年度は,生物形態データベースから作成した骨の有限要素モデルを対象に,形状の最適設計を行う手法を開発した.データベースよりN個の骨を選択し,それらに対しMM法により有限要素モデルを作成すると,形状は異なるが等しい要素分割を持つN個のモデルを得ることができる.これらのモデルに対し,ベーシスベクトル法(BV法)を用いて形状合成を行う.即ち,各モデルの対応する節点座標を重み付け線形和で計算し,その重みを変えることにより様々な形状を生成できる.この重みを設計変数とし,重量や応力を目的関数として形状最適化を行う方法を開発し,その有効性を検証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では,平成29年度に,(1) 生物形態データベースの構築の継続と,(2) 生物構造の荷重条件の同定手法の開発を行う予定であった. (1)については,計画通り多種多様な動物の骨資料を石川県自然史資料館の協力を仰ぎ医療用CTスキャンでCT画像を蓄積して3次元形態モデルを構築し,この作業を通じて大量の生物骨形態モデルの作成を継続している.目標では平成29年度中に動物の骨格系で100点程度の三次元形態モデルを作成する予定であったが,現在までに24種の動物における約150点のモデルを既に作成している.また,それらのデータからデータベースの基盤を構築し,インターネットを通じて3D PDFにより三次元的な形状を確認できるようにしている.以上のことから,(1)については計画以上の成果が得られている. 一方(2)については,内部構造を含む骨形態モデルと,構造設計用に中空構造に単純化したモデルとでは適合する荷重条件・境界条件が異なることから,構造設計のためのモデル作成法と形状最適化手法の検討を先行させるように計画を変更した.形状最適化ではモデルの力学計算を伴い,荷重条件とその適応状態についても自ずと明らかになる.従って,適合する荷重条件・境界条件の同定手法については,形状最適化手法が確立した後,改めて検討することとした.平成28年度では,メッシュマッチング法(MM法)を用いたモデル作成法を確立し,その有効性を確認している.平成29年度はMM法で作成したモデルに基づきベーシスベクトル法を用いて形状最適化を行う方法を開発し,杖の設計問題に適用してその有効性を確認した.(2)については,計画変更があったものの,最適設計に適用したモデルについては荷重条件への適応状態がわかり,成果は上がりつつある. (1)(2)を総合的に判断すれば,研究全体としては,概ね順調に進展していると評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,(1) 生物形態データベースのさらなる充実,(2) 生物構造の荷重条件の同定手法の開発,及び(3) 生物形態データベースに基づく最適化法の応用を行う.(1)(2)(3)の詳細を下記に示す. (1) 生物形態データベースの充実:前年度までに構築した多種多様な生物の構造データからなる生物形態データベースをさらに充実させる.現在までに,24種の動物における約150点の骨の3次元モデルデータが作成されているが,最終年度はデータの多様性の拡大を図る.特に,脊椎動物の骨のデータに限らず,昆虫や甲殻類の外骨格も含めて形態モデルの作成を進め,データベースの充実を図る.サイズに応じ医療用CTもしくはμCT装置を用いてCT画像を取得し,CT画像から3次元形態モデルを構築してCAEシミュレーションによる力学的特性の解明を行う. (2) 生物構造の荷重条件・境界条件の同定:今までに作成した骨の有限要素モデルを対象として,それが適応している荷重条件を同定する手法の検討を行う.具体的には,圧縮・引張,曲げ,ねじりの各荷重を重み付きで与え,応力分布の偏りが最小になるような重みを最適化法により求める方法を開発し,その有効性を検証する.この方法により,各骨の形状が適応していると予想される荷重条件を定量的に明らかにし,データベースにデータとして加えることができれば,データベースから直接,荷重条件に適した骨形状を導出することも可能になる. (3) 生物形態データベースに基づく最適化法の応用:前年度までに,データベースの3次元モデルからメッシュマッチング法を用いて有限要素モデルを作成し,それに基づきベーシスベクトル法により形状最適化を行う手法を開発した.今年度はその手法を用いて,具体的な機械構造部品等の最適設計を実施し,その実用性を検証する.最後に,本研究で得られた研究成果を報告書としてまとめる.
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費(消耗品)の購入額が当初の計画の見積もりよりも14円だけ低かったため.次年度使用額である14円は,物品費(消耗品)として使用する計画である.
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