研究課題/領域番号 |
16K05973
|
研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
旭吉 雅健 福井大学, 学術研究院工学系部門, 講師 (30342489)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 多軸 / クリープ / 寿命評価 |
研究実績の概要 |
火力発電プラントのボイラー配管に代表される高温構造機器では多軸応力状態でのクリープ損傷評価が要求される。この問題を解決するために,本研究課題では十字型形状の試験片を用いた高温多軸応力クリープ実験手法と高精度な寿命評価式開発を提案する。クリープ損傷評価の実験手法として,一般には,丸棒形状の試験片を用いた単軸応力での検証がその容易さから多く採用されている。しかし,単軸応力結果を多軸応力損傷評価へ適用することの妥当性検証は未解決である。さらに,多軸応力実験に関しては,その手法や試験片形状寸法等に関する規格や学会標準が存在しないこともあり,検証報告例が限られている。 本研究課題の最終目標は,実験力学的手法によって高精度な多軸クリープ寿命評価式を開発することであるが,とくに試験片の形状寸法に着目する。十字型試験片の二軸方向に荷重を負荷する手法は実験室で模擬できる多軸応力状態範囲が広いというメリットを有していることから,同試験片を用いたクリープ実験を行う。十字型試験片で多軸応力クリープデータを蓄積して解析することで寿命評価法の高精度化を図る。さらに,試験片のさらなるサイズ小型化を実現して,実機での局所位置の正確な損傷量把握を可能とする。具体的には,溶接タイプの試験片を提案する。すなわち,実機から採取した小型試料サンプルに実験荷重負荷用の素材を溶接で取付けた試験片での実験手法の妥当性を検証する。 最終目標の解決のために①50mmの小型十字型試験片を用いた高温多軸クリープ実験手法の確立,②高温多軸クリープ寿命評価式の開発,③溶接タイプ小型十字型試験片の形状寸法の決定,④微小素材を用いた損傷量評価手法の確立,の4つの具体的課題を設定している。初年度は,①に用いる十字型試験片の形状および寸法を数値解析によって詳細に検討して決定完了した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度の当初計画は,(1)一辺が50mmの十字型試験片の形状寸法決定,と(2)高温多軸クリープ実験技術の確立,である。 (1)については,有限要素法解析を用いて十字型試験片の形状および寸法の詳細値を決定した。試験片の機械加工条件や実験時の取扱い操作性も総合的に検討して同試験片の一辺は50mmとした。さらに,試験片中央の6.4mm×6.4mmの標点部において応力分布が均一かつ平面応力状態になるように各部の形状寸法を試行錯誤的に変更して決定した。十字型形状の試験片では,その四方向に軸荷重を負荷することで標点部に応力を発生させるが,材料力学の教えるところから,直交する荷重はお互いの荷重による変形を拘束する。この課題解決のために,荷重負荷部に微細スリットや応力集中部を適当に設けることを提案した。微細スリットの幅と本数やスリット途中に設ける円孔応力集中部の位置に関して,その最適値を見つけることで,2kNの荷重で標点部に約200MPaの相当応力を発生させることを可能とした。0.2mm幅のスリット加工には高度な技術ノウハウも要求されるが,試験片標点部の応力分布に及ぼすスリット部の寸法精度の影響はほとんどみられなかったことから,スリット部の加工指示は目標値とすることで課題を解決した。 (2)については,(1)での数値解析や,設計開発した試験片用の多軸クリープ試験装置開発で再検討事項が生じたことから,当初の計画は未達成である。具体的には,試験装置の図面は完成したが,試験片中央標点部の微小な変位計測手法の最適解が得られていない。伸び計手法や画像計測手法等のいくつかの手法を要素試験を行うことで検討しているが,高温環境で微小変位を計測する課題に対して,環境温度やセンサーの近接距離に関する拘束条件等が重なっている。この課題解決のために新たな変位計測手法を提案して,その精度や適用性を検証中である。
|
今後の研究の推進方策 |
2年目の平成29年度は,当初の計画に従い,十字型試験片の高温多軸クリープ実験により高精度な寿命評価式を開発することを目標とする。具体的には,オーステナイト系ステンレス鋼SUS304の多軸クリープ実験を行う。クリープ特性に及ぼす応力多軸度,試験片サイズ,環境温度の影響に関して,系統的な実験計画に従って遂行する。 しかし,前述のように進捗状況には遅れがあることから,まず,平成28年度に完了する計画であった高温多軸クリープ実験技術を確立する。具体的には,平成28年度に設計した十字型試験片の実加工と,同試験片用の多軸クリープ試験装置の詳細設計と製作である。十字型試験片を試験装置に取付ける機構部の詳細設計も必要であることから,それらの課題を同時平行的に実施して解決する。十字型試験片の中央標点部の微小変位計測手法として静止画を用いた新たな手法を提案するが,同手法の妥当性検証と試験装置への組込み作業にもある程度の時間が必要である。 また,新たな変位計測には更なる改良や再検討事項が発生する恐れもあるが,全体計画に遅れを生じる可能性がある場合には,以下の対処法を考えている。すなわち,試験片標点部の変位データはクリープ曲線描画や変形と破壊形態の詳細解析に必要であるものの,変位データ無しでも,いわゆる単純な破断試験による破断寿命データや破壊形態情報を蓄積することは可能である。さらに,十字型試験片の荷重負荷部の変位は中央標点部の変位に比べて比較的容易に計測可能であると思われる。これらのことから,先行して破断寿命データ,破壊形態情報と荷重負荷部の変位データを基にして高温多軸クリープ寿命評価法の開発を開始する。標点部変位と荷重負荷部変位との関係を数値解析で補完したり,破断寿命と破壊形態との相関を解析することで寿命評価法の精度向上を図るアプローチも計画している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験に用いる十字型試験片の形状および寸法の数値解析設計で計画以上の時間を要したために,初年度中には同試験片を用いた多軸クリープ実験を遂行できなかった。計上していた予算のほとんどが試験片であったことから,次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
実験条件は当初の研究計画どおりに遂行するために,準備する試験片の本数は変更しない。時間の制約もあることから,実験スケジュールの見直しやさらなる効率化を図ることで当初の実験条件を完了させる予定である。
|