研究実績の概要 |
鉄格子中での水素と添加元素との相互作用(〔1〕),および,原子空孔または複空孔と水素との相互作用挙動(〔2〕〔3〕)の解明を中心に研究に取り組んだ. 〔1〕格子中での水素と添加元素との相互作用の評価: 様々な添加元素(C, Mo, P, S, Si, N, O, B, F)について,純鉄中に侵入型または置換型で固溶させた場合の溶解熱と原子配置を評価した.次に,以上の計算結果を基礎知見として,完全結晶中での上記添加元素と水素原子との相互作用エネルギーについて評価を行った.侵入型の固溶元素のまわりには隙間が広がるサイトがあり,そのようなサイトにおいて0.16 eV程度の強さで水素がトラップされることがわかった. 〔2〕純鉄中の空孔に関する解析: 第一原理計算により,原子空孔と,原子空孔が2個結合したdivacancyに対して,拡散の活性化エネルギーの評価を行った.その結果,原子空孔で0.68 eV,divacancyで0.53 eVであることがわかった.また,原子空孔が結合して様々な形状の空孔クラスターになる際の結合エネルギーを明らかにした. 〔3〕空孔の水素トラップ数の解析: 原子空孔および複空孔の水素トラップ数の温度依存性を評価した.さらに,水素トラップ数の温度変化から,これらの欠陥からの水素脱離曲線を求めた.その結果,複空孔(特に立体配置)の場合には,ブロードな水素脱離曲線が得られるのに対して,原子空孔ではトラップエネルギー0.55 eV(ここで用いた原子間ポテンシャルでの原子空孔への1個目と2個目の水素トラップエネルギー)に対応する鋭いピークが現れることがわかった. また,〔1〕,〔2〕の結果を勘案して,原子間ポテンシャルの調査を行なった.
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