研究課題/領域番号 |
16K05976
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松本 龍介 京都大学, 工学研究科, 講師 (80363414)
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研究分担者 |
武富 紳也 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20608096)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 機械材料・材料力学 / 金属物性 / 計算物理 / 水素脆化 / 格子欠陥 / 分子動力学 |
研究実績の概要 |
粒界の水素トラップ量と水素放出曲線の評価(〔1〕),および,純鉄における空孔の凝集条件と解離条件の解明(〔2〕)を中心に取り組んだ. 〔1〕粒界の水素トラップ量と水素放出曲線の評価 H28年度の研究によって,原子空孔と空孔クラスターでは,昇温時の水素放出曲線の形状が大きく異なることがわかり,水素の脱離温度だけではなく,脱離曲線の形状からも水素関連格子欠陥の推定が可能であることが示唆された.本年度は,それに加えて粒界の水素トラップと水素放出曲線の評価を行った.その結果,高エネルギー粒界,つまりフリーボリュームの多い粒界においては水素のトラップ量が多くなり,水素放出曲線のピークがより高温側に移動することがわかった.また,粒界からの水素放出曲線の形状は原子空孔や少量の空孔からなる複空孔のものとは明瞭に異なることがわかった. 〔2〕純鉄における空孔の凝集条件と解離条件 塑性変形によって原子空孔が大量に生成された際に,それらの空孔が凝集・解離する条件の解明に第一原理計算を基礎として取り組んだ.まず,空孔クラスターの安定性とサイズ,配置の関係を明らかにし,水素の有無によってその傾向が大きく変化しないことを明らかにした.また,空孔のエントロピーを考慮することで,常温環境において原子空孔の凝集が始まる空孔濃度を明らかにした.さらに,空孔クラスターからの原子空孔の脱離頻度を評価することで,空孔クラスターが解離する温度と空孔クラスターのサイズの関係を明らかにし,水素脆化因子の特定に寄与した. また,学協会において,昇温脱離分析や陽電子消滅法を用いた実験による研究グループと積極的に情報交換を行い,お互いの結果がよく整合し,それぞれの方法でしか得られない知見が補完しあって,水素脆化機構の解明に向けて前進していることが確認できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金属中の水素は材料/力学/環境的因子に依存して極めて複雑な挙動を示す.したがって,水素脆化の研究では初期条件や環境条件を厳密に規定して,水素の影響を精緻に評価するアプローチが不可欠である.また,実験や計算といった一つの研究手法だけによる現象解明は困難であり,お互いの補完が極めて重要となっている. 本年度は,第一原理計算を基礎として空孔の凝集と解離条件を明らかにした.また,分担研究者が行った分子動力学シミュレーションの結果,関連の学協会において積極的に行った情報交換によって,様々な新しい知見を得ることが出来た. 以上のことは,おおむね計画通りであり,本研究は順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
代表的な鉄中の置換型元素を計算モデルに導入した場合の格子欠陥と水素との相互作用エネルギーをより詳細に評価する.また,これまでの研究で,純鉄においては空孔のクラスター化が水素脆化機構の鍵であることがわかってきたため,原子空孔に上記の添加元素と水素を同時にトラップさせた場合に,原子空孔が凝集/解離する条件がどのように変化するのかを明らかにする. さらに,昇温脱離分析を用いた研究によって,100℃付近に水素放出ピークを発現する格子欠陥が水素脆性と強い関連があることが示されている.この水素放出ピークについて,原子空孔の凝集と解離の観点から解析を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)当初予定していた人件費を使うことなく,研究を順調に遂行できたため. (使用計画)平成30年度は国際会議による渡航を予定しており,その旅費にあてる予定である.
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