研究課題/領域番号 |
16K05989
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
大塚 年久 東京都市大学, 工学部, 教授 (40233176)
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研究分担者 |
岸本 喜直 東京都市大学, 工学部, 講師 (20581789)
小林 志好 東京都市大学, 工学部, 准教授 (90295014)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 機械材料・材料力学 / 損傷力学 / 熱サイクル疲労 / マルチフィジックス / マルチスケール / 積層構造 / 薄板構造 / 二次電池 |
研究実績の概要 |
前年度に十分な試験データを得ることのできる試験片を作製するノウハウを構築し,疲労試験の条件を決定できたので,今年度は当初計画にしたがい,疲労試験を実施した.前年度の結果から,電極材の様相の変化は,負荷荷重よりも母材に与えたひずみに対して顕著な傾向がみられたので,ひずみ制御を念頭においた試験装置を設計・製作した.具体的には平板曲げ疲労試験機を参考に,一定の曲率を持たせた曲面板に試験片を繰返しあてがい,試験片に曲げによるひずみを繰返し与える機構とした.試験装置の製作後,ひずみ制御による疲労試験によって繰返し変形に対する電極材の基礎データを得た.試験片にはリチウムイオン電池の負極板(母材が銅箔,電極材がカーボン)を用いた.また,銅箔にはひずみゲージを貼付し,試験中に銅箔に生じるひずみを測定した.疲労試験の結果から,試験片に繰返し曲げひずみを与えると,銅箔またはカーボンにき裂が発生した.このときのき裂の発生位置は,銅箔とカーボンのそれぞれの厚さに依存していた.銅箔が厚いと銅箔にき裂が生じやすく,銅箔が薄く,カーボンがある程度の厚さを持てば,カーボンにき裂が生じた.疲労試験と並行して,試験結果の妥当性を検証するための有限要素解析を行った.銅箔に生じるひずみについて,有限要素解析による計算値はひずみゲージによる実測値とよく合っていた.銅箔にき裂が発生するまでの繰返し数を横軸に,銅箔に与えたひずみ振幅を縦軸にとったS-N線図は先行研究によって求められた銅のS-N線図とよく合っていた.カーボンに生じるひずみは直接ひずみゲージで測定できないので,有限要素解析による計算値を疲労試験で与えたひずみ振幅とみなし,カーボンのS-N線図を描いた.他の材料でも見られる一般傾向と同様に,カーボンのS-N線図もひずみ振幅が小さくなるとカーボンにき裂の生じるまでの繰返し数が大きくなることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リチウムイオン電池の負極板の荷重制御下における疲労特性をおおむね確認できた.平成29年度内での温度制御下による疲労試験の実施には至っていないが,荷重制御下における疲労試験の追実験を含めて,順次,疲労試験データを取得・解析できる体制を確立できた.
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究目的を鑑みて,不足している荷重制御下,温度制御下の疲労試験を順次実施する.試験中および試験後には,き裂の発生と進展の様相を観察し,そのメカニズムの解明に取り組む.このとき,銅箔のみ,およびカーボンのみの引張強度をはじめとする基礎データが必要であると予想されるため,これらの引張試験を並行して行う.疲労試験や引張試験の結果を踏まえ,熱サイクル疲労に対する試験片の挙動を再現するための有限要素解析手法の開発を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定のとおり,実験装置および試験片,研究成果の発表(旅費,学会参加登録費)に助成金を使用した.銅箔のみ,およびカーボンのみの引張試験を行う必要が生じたため,平成28年度分の未使用額を充てることで,これらの引張試験を精度よく行える引張試験機を導入できた.平成29年度までの残高は追実験用試験片材料費であり,平成30年度に使用予定である.
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