研究課題/領域番号 |
16K05990
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
納冨 充雄 明治大学, 理工学部, 専任教授 (70218288)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 水素吸蔵材料 / 積層膜 / PCT測定 / マグネシウム / 抵抗加熱真空蒸着法 / メカニカルアロイング |
研究実績の概要 |
本年度の研究実績の概要を研究ごとにまとめると次の通りである. (1) 真空蒸着法の一つである抵抗加熱法を用いてTi膜厚の異なるMg/Fe/Ti積層膜を作製し,作製試料の水素吸蔵放出特性を評価することで,Ti膜厚がMg/Fe薄膜の水素吸蔵放出特性に及ぼす影響について調べた.Mg/Fe膜に15nmから200nm厚さのTiを積層することにより,水素吸蔵特性を改善することが出来た.一方,Tiを積層しない.あるいは500nm以上の厚さのTiを積層すると,積層膜は水素を吸蔵しなかった. (2) MA法により作製したMg単体,Mg-Fe,Mg-Pd,Mg-Fe-Pd合金(組成の異なる2種類)を作製し,水素圧2MPa,300℃の環境で水素化処理を行った.X線回折でMgH2の生成を,DSCで水素の放出温度を調べた.その結果,Mg単体とMg-PdはMgH2を生成しないが残りの試料は生成した.さらに,いずれの試料でも280℃で水素を放出した.MgH2の水素解離温度は430℃なので,大幅な温度低下となった. (3) 単層カーボンナノチューブ(Single-Walled Carbon NanoTube)に焼成法を応用してリチウムを付与し,水素吸蔵量の増加を目指した.JIS H7203を参考にしてSWCNT単体とSWCNT+Liの水素圧力-組成-温度曲線を測定した.2.0MPaにおける水素吸着量を比較すると,SWCNT単体は0.464wt.%,SWCNT+Liは0.687wt.%で,リチウムの付与により0.223wt.%向上した.大気圧まで減圧した時の残存水素量は,SWCNT+LiがSWCNT単体より0.1405wt.%大きい.これは,リチウム担持によりリチウム自体の水素吸蔵と,SWCNTのポテンシャルエネルギ増加という2種類の効果が得られたことが考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の申請時のスケジュールでは,平成29年度までに実施すべき研究は,(1)積層薄膜関連では「各層の膜厚の効果」であり,(2)合金粉体関係では「MA条件の検討」「添加元素の効果」となっている. (1)では,昨年度は,Polyimide(PI)/Mg/Pd膜を作製したが,今年度はPI/Mg/Fe/Ti膜を作製した.Tiは水素分子を水素原子に分離する触媒の作用があるため,Mg/Fe膜の水素吸蔵放出特性の向上が見込まれたが,実際にはTi膜の厚さによって水素吸蔵放出特性が変化することが明らかになった.特に,Ti膜は厚すぎるとMg/Feの水素吸蔵能力が失われることが明確となった.これは,予想されたことではあるが,本研究で明確になった知見と考えている. (2)では,昨年度はMgにFeを混ぜて合金化する条件が明らかになっていたが,MgにFeとPdを混ぜて合金化する場合の配合比,ミリング助剤,時間等の条件が明らかとなり,安定的に合金を製造することが可能となった.特に,Mg-Fe-Pd合金のMA法が確立したことは本年度の成果と考えている.一方,添加元素については,水素放出温度の大幅な低減効果は確認されたが,水素吸蔵量については十分な成果は得られなかった.これは,FeもPdも金属であるため原子量が大きく,水素吸蔵量を改善するために必要なFeとPdをMA法で合金化するのは,重量的にデメリットであることが判明した.そこで,薄膜化やカーボンナノチューブ等の有機系の材料の混合も検討した.後者の一部が『研究実績の概要』の(3)に相当している.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度まではほぼ申請時の研究計画の通りに進んでいる.そこで,平成30年度も引き続き水素吸蔵放出特性を高めた(1)積層薄膜と(2)合金粉体の開発に取り組む. (1)では,Mg-Fe-Pd合金に水素吸蔵特性が認められたが,Pdは白金族元素であり,希少金属となっている.しかも,触媒としての効果は表面に存在する元素のみが有効と考えられ,合金化の必要性については議論のあるところとなっている.そこで,MA法による粉体ではなく,抵抗加熱真空蒸着法によって積層膜を作製し,PI/Mg/Fe/Pd膜について再度検討を重ね,FeとPdの触媒効果を明らかにする.さらに,膜厚の効果を検討する研究から積層膜の水素透過度の検討が必要であることが判明したので,水素透過度測定装置を設計・作製し,高分子素材と金属材料の複合で作られる積層膜の水素透過度を測定する. (2)では,今後資源として重要視されているマンガンに着目した.金属間化合物触媒の中でもチタン鉄(TiFe)系合金は比較的安価であり,常温・常圧付近で水素と反応するが,この高い水素反応性を得るためには表面の酸化物層を活性化処理によって除去する必要がある.そのための活性化処理に高温・高圧を要するが,Nagaiらはマンガン(Mn)等の第3元素をTiFeに固溶させてTiFe相中に微細な第2相を分散析出させることで,この相の境界が水素侵入の起点となり,活性化特性が改善することを報告している. VijayらとKondoらはTiFeにMnを固溶させた合金をMAによってMgに複合化することでMgの水素吸蔵・放出特性が改善したことを報告している.ここで彼らは触媒効果を得るために活性化処理を行っているが,Mg-TiFeMn合金にグラファイトを添加してボールミリングすることによって,表面の酸化を防止して活性化特性の改善を目指す.
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