研究課題/領域番号 |
16K05991
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
池永 訓昭 金沢工業大学, 工学部, 准教授 (30512371)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | DLC膜 / 耐熱性膜 / 機能性膜 / 元素添加膜 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は, Si添加したDLC膜の耐熱性改善のメカニズムを明らかにすることにある.初年度はこれまでの研究で耐熱性の改善が確認できているSi添加DLC膜の再現性の確認を行うとともに,膜中でのSiの存在形態をTEM,XRDを用いて評価し,耐熱性改善につながる知見を得ることを目的として研究を実施した. ①スパッタリング成膜法を用いて種々のSi濃度に調整したSi添加DLC膜を作製し,それらの試料を400~1000℃(大気雰囲気中)で熱処理して摩擦係数を測定した.その結果,Siを添加していないDLC膜はすべての熱処理条件において膜が除去される結果となった.一方で,Siを添加したDLC膜はSi濃度に関係なく熱処理をしても膜が除去されることはなかった.特に,Si添加濃度が約10at.%の試料においてのみ,すべての温度領域で摩擦係数の劣化が見られず,これまでの研究結果と一致することを確認した. ②耐熱性の改善が確認できた試料の断面TEM観察を実施した結果,膜中に特異な層が形成されていることを確認した.この層の組成をEDX,結晶構造をXRDで確認したものの,耐熱性が確認できなかった他の膜と比べて注目すべき差異は見られなかった.したがって,断面TEM観察で膜中に確認された特異な層は,XRDで検出できる大きさの結晶になっていない,あるいは結晶の構造を有していないことが示唆された.一方で,添加したSiの濃度に関係なく熱処理によって膜が除去されない,すなわち膜が酸化されない結果は耐熱性のメカニズム解明にとって注目すべき点であると考えている.今後はXPSを用いた化学結合状態を確認することで新たな知見が得られると考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Si添加した種々のSi添加DLC膜の作製,および一部の試料において耐熱性が改善できることを改めて確認できたことで,試料の作製に関しては概ね予定通り進展していると考えている.一方で,耐熱性発現のメカニズムの解明に関わる評価・分析においては,当初予定していた設備が故障したため,膜中のSi原子の結合状態を十分に明らかにするには至らなかった.また,熱処理条件によってはXRDでも検出できる程度の結晶成長することを予想していたが,予想したほどの結晶成長はしない可能性が示唆される結果となった.この点に関してはXPS分析によって得られる結果とあわせて検討していきたい.
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今後の研究の推進方策 |
DLC膜に添加したSiの化学結合状態を踏まえ,膜中でのSi原子の存在形態を明らかにする.また,耐熱性の改善が確認できなかった他の濃度におけるSi原子の膜中での存在形態も明らかにすることで,添加したSi原子の濃度と膜中での存在形態,および耐熱性改善との関係を明らかにする.この結果を踏まえて,DLC膜の耐熱性のさらなる改善,あるいは添加元素の膜中での存在形態を制御するための成膜プロセスの検討を行う. また,DLC膜にSi以外の元素を添加することで屈折率を制御する検討を行う.これに関してはSi添加した場合と同様に,膜中での添加元素の存在形態と屈折率の関係を明らかにすることでその知見は得られると考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
装置故障に伴い未実施となった実験に関わる消耗品が発生したため.
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次年度使用額の使用計画 |
本年度未実施であった実験は次年度に実施する予定である.
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