昨年度は耐熱性が改善されたSi添加DLC膜の表層に,新たにSiOxを含む層(以下新規層)が形成され,2層構造になっていることが明らかとなった.また,新規層は,Si添加量が少ない条件においては形成されなかったため,新規層が耐熱性の発現に何らかの影響を与えていることを明らかにした. 本年度は高耐熱化のメカニズムの解明に資する知見を得るため,Si添加量の異なる3つの試料についてさらに詳細なTEM観察とEDS分析およびXPS分析をおこなった.3つの試料のうち,高温環境下に暴露してもDLC膜の消失がなかったものは,Si添加率が10at.%以上であった2つの試料であり,それらの試料には新規層の形成が確認された.確認できた新規層の厚み,およびSi:Oの組成比はおおよそ1:2とほぼ同じであり,XPS分析結果からSiO2の結合を示すピークが見られたことからSiO2が形成されていることを確認した.さらに高分解能TEM観察によってSiO2の微粒子を確認した.さらに,これらの2つの試料のうちの1つは摩擦係数が劣化せず,もう1つは摩擦係数が劣化していたことから,摩擦係数の劣化と新規層に形成されたSiO2微粒子は直接の相関がないと言える.一方で,新規層のC元素の比率に注目すると,摩擦係数が劣化しなかった試料では,摩擦係数が劣化した試料と比べて,明らかにC元素の比率が減少していることが分かった.これらの分析結果から,SiO2微粒子を含む新規層は,高温環境下でバリア層として機能すると同時に,適量のC元素が含有することで低摩擦を発現していると考えられる.
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