研究課題/領域番号 |
16K05993
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
田原 大輔 龍谷大学, 理工学部, 講師 (20447907)
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研究分担者 |
村上 英樹 金沢大学, 医学系, 准教授 (70334779)
辻上 哲也 龍谷大学, 理工学部, 教授 (80243179)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 計算バイオメカニクス / 脊椎 / 後方固定術 / スクリュー緩み / 骨リモデリング / 有限要素法 / 繰り返し負荷 / 引き抜き試験 |
研究実績の概要 |
本研究グループは,脊椎固定術において頻発するスクリューの緩みの抑制を狙い,ダンパ相当部を導入した「dynamic stabilization」型ロッドを提案している.本研究は,その緩みの抑制効果の検証とメカニズム解明を行い,ロッドの構造最適設計を目指すものである. 平成28年度は,緩み発生因子として考えられるスクリュー周囲の骨リモデリングによる固定性の低下と微小破壊の発生に着目し,dynamic型ロッドの緩み抑制効果の評価を骨リモデリングシミュレーションにより行うとともに,繰り返し負荷後の引き抜き試験に基づく実験手法の確立を目指した実験条件の検討を行った.また,平成29年度以降に微小破壊の発生をマクロな計算モデルでも予測するため,dynamic型ロッドの特徴的な変位挙動を可能とするダンパ相当部の詳細なモデリングを試みた.研究実績は,以下の3点にまとめられる. 1.スクリューを挿入した準2次元の椎体モデルを作成し,骨リモデリングシミュレーションにより,dynamic型ロッドのダンパ相当部の見かけの剛性変化がスクリュー周囲の骨梁形態変化に与える影響を評価した.また,骨リモデリング後のモデルに対し,計算機上で引き抜き試験を想定した解析を行い,dynamic型ロッドの緩み抑制効果を評価した. 2.模擬骨試験片を用いた脊椎固定術モデルに対する繰り返し負荷後の引き抜き試験の実験手法の確立のため,試験片への繰り返し負荷回数を1000回から1000000回の範囲で変化させ,負荷回数と引き抜き荷重の関連を評価した. 3.ダンパ相当部における0.4 mmの変位と2°の回転の特徴的な挙動を反映した脊椎固定術の有限要素法解析による評価を目指し,ダンパ部の構造と挙動を反映した詳細なモデリングを行うとともに,dynamic型ロッド単体の引張試験,曲げ試験を行い,モデル化の妥当性を評価した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,dynamic型ロッドと従来型(rigid型)ロッドを脊椎固定術に適用した際の1) スクリュー周囲の骨リモデリングの予測,2) スクリューの引き抜き荷重の比較,3) スクリュー周囲の骨構造の損傷形態の評価,4) ロッドの挙動とマクロな脊椎内応力分布の関係の解明を研究項目として設定している.平成28年度は以下の成果を上げることができた. 1. dynamic型,rigid型ロッドを用いた椎体モデルのスクリュー周囲の骨のリモデリングを評価した結果,dynamic型ロッドを用いた場合,骨梁形態が密となり,広く応力が発生した.これは,ダンパ相当部の変位の許容により,スクリュー周囲に荷重が伝達されて骨形成が促進され,豊富な骨梁ネットワークが形成されたためである.また,計算機上での引き抜き試験ではdynamic型ロッドの反力が高くなり,緩み抑制に有用であることが示された. 2. 模擬骨に両ロッドによる固定術を施し,繰り返しの負荷回数を変化させて引き抜き最大荷重を比較した結果,繰り返し回数が1000回以降は引き抜き荷重に大きな変化がなかった.これは,少ない負荷段階で微小破壊が発生し,その後の負荷にスクリューの固定性が依存しないことを意味している.このため,初期段階の破壊に注目することが重要で,1000回の繰り返し負荷を付与すれば実験方法として妥当であることが示された. 3. ダンパ相当部の詳細化のため,リングバネ,上部・下部ロッドどうしの境界接触を定義し,複雑な挙動の反映が可能になった.リングバネの見かけの剛性の同定のため,dynamic型ロッドの引張・圧縮試験の後,0.4 mmの変位下で見かけの剛性を変化させながら解析を行った結果,見かけの剛性として22 MPaが得られた.また,ロッドの引張・圧縮状態において,ダンパ相当部内の各パーツに荷重が伝達することも確認された.
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今後の研究の推進方策 |
1. より詳細なスクリュー周囲の骨リモデリングシミュレーションを行うため,後方固定術モデルの3次元化を行うとともに,複数椎体をモデル化し,直接スクリュー挿入をした椎体に隣接する椎体内の骨梁形態変化の差について,dynamic型,rigid型ロッド間で比較を行う.また,シミュレーションから得られた椎体の骨梁形態モデルの試験片を3次元プリンタで作成し,実際に引き抜き試験を行うことで,実験的評価を行う. 2. 模擬骨を用いた固定術試験片に対する実験手法について,繰り返し負荷の変位量と周波数が引き抜き荷重に与える影響を評価し,適切な実験手法を確立する.また,試験片に用いる模擬骨材料の密度特性を変化させ,骨粗鬆症の進行を想定した試験片を作成して引き抜き試験を行い,dynamic型ロッドの緩み抑制効果を評価する.さらに,実際の脊椎のアライメントを反映した試験の実施のため,実形状を模した複数の模擬骨試験片に両ロッドを挿入した試験片を作成し,繰り返し負荷後に引き抜き試験を行う実験手法の検討を行う. 3. スクリュー周囲の微小破壊による損傷程度について,マイクロCT観察,SEM観察画像を基にしたミクロ構造分析による定量化を試みる. 4. dynamic型ロッドのダンパ相当部のモデル化の妥当性をより詳細に検討するため,曲げに対する挙動の妥当性をロッド単体への負荷試験結果と計算モデルの比較により検証し,精度の高いモデル化を目指す.また,作成したダンパ相当部のモデルを複数椎体のモデルに挿入した脊椎固定術モデルを作成し,骨の材料非線形を考慮した荷重増分解析により,スクリュー周囲の微小破壊の発生について,両ロッド間で比較を行う. 5. dynamic型ロッドの抑制効果の有無を明らかにし,その効果を最大限に引き出すための最適設計指針について検討を開始する.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の予算は当初の計画に沿いほぼ使用できたが,出張費が予想よりもやや抑えることができた.少額分を平成29年度に繰り越して使用することが望ましいと判断したため.
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次年度使用額の使用計画 |
少額のため,消耗品または出張費の使用に充当する.
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