本研究の目的は金属と樹脂のレーザ接合法を開発するという全体構想の中で,レーザ接合時の接合界面温度を非接触で測定する方法を確立すること,および,レーザ照射中に接合界面で生じる電場増強現象を解明することである.放射温度計を用いて接合界面温度の測定を試みると,レーザ照射中に放射温度計の出力に温度とは無関係な信号が重畳して正確な温度測定が行えないという問題がある.平成28年度と平成29年度にこの電場増強の原因の解明に取り組んだ結果,放射温度計の仕様では測定波長の範囲外であるはずの接合用レーザの反射光に放射温度計が反応していることがわかり,接合用レーザの波長を除去する光学フィルタを用いることで温度測定が適切に行えることを確認した.また,この重畳信号を積極的に利用すれば,接合面温度の測定に不可欠な放射率の時々刻々の値をインプロセスで測定できることを着想し,平成29年度にその原理の検証を行った. 平成30年度は放射率のインプロセス測定を十分な精度で行うための測定装置の改良を行った.平成29年度に行った実験では放射温度計を2台使用したが,2台の取付け位置のわずかなが違いが測定精度に致命的な悪影響を与えることが課題であった.そこで平成30年度は分岐型光ファイバを導入し,1本の光ファイバに入射した電磁波を2本に均等に分割してそれぞれの放射温度計に入射するように改良した.また,分岐型光ファイバの後段には放射温度計ではなくシンプルな光検出器を設置することが有効であると判断された. 3年間の成果として,放射温度計の出力に重畳する信号の原因が解明でき,その信号を利用することでレーザ接合中の接合面の時々刻々の放射率と温度が測定できることがわかった.後者は当初の想定とは違う形で温度測定が実現されることを意味している.以上より,本研究の目的は概ね達成されたといえる.
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