研究課題/領域番号 |
16K06013
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
吉村 英徳 香川大学, 工学部, 准教授 (30314412)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 中空金属球 / 固化成形体 / 圧縮特性 / プラトー応力 / 絞り加工 / 薄板 |
研究実績の概要 |
卵パック形中空金属球成形体の試作のため,まず板材から3行3列の半球絞り加工を行うための直径5mmの球頭パンチ工具およびそれに対応するダイス工具を試作し,それを用いて,厚み0.15mmの深絞り用鋼板を加工して,その加工性を調査した.9個で試行したのは,周囲の8個で材料が拘束され,真ん中の半球絞り部で破断しやすいためである.まずは,単なる一枚の平板の絞り加工を試行した結果,80%程度のパンチストロークで破断し,球の半径の高さまでの半球の絞りはできず,一般に報告されている通りの結果となった. そこで,年度予定通りに,有限要素解析シミュレーションを用い,本加工の周期対称性からモデル化した計算を行い,絞り限界の向上を試みた.その手法として,隣接する4個の半球の間となる部分を打抜き,材料流動を良くすることを提案し,その解析を行うことで,破断までの加工限界が向上できることが分かった.このとき,効果のある打抜き形状として,円,ひし形,正方形と変え,調査を行ったが,ひし形にすることが最も有効であることが分かった.その結果を経て,外注するための図面を作成し,打抜き金型を外注した.予定通り,H29年度に,打抜いた薄鋼板による実験できることとなった. さらに,年度計画ではH29年度に予定していた機械的特性調査についても一部実施した.H28年度において途中まで張出した卵パック上のものを積層して,固化成形体を試作している.試作成形体による圧縮試験を行ったところ,プラトー応力が現れ,今まで提案してきた塑性加工中空球による方法よりも,圧縮特性は高く,有効なポーラス材料であることが明らかとなった.その結果は,H29年度6月に開催される日本塑性加工学会春季講演会にて発表予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
H28年度計画にある絞り装置の設計・試作において,9個の半球張出し部を持つ予備検討装置であるが,予定通り試作できた.それを用いて,絞り加工の加工限界を見るため,薄鋼板から卵パック形の試作もなされ,確認が済み,完全な半球までの絞りは不可能だったものの,おおよそ成形体が試作できる程度の絞り加工ができることが分かった.また,曲げ試験片用の装置も設計・外注・納入済みであり,少し大きめの試験片を作製し,圧縮特性および曲げ特性を調査できることとなった. 絞り加工の限界を向上する策として,H28年度の計画どおり,有限要素法解析による打ち抜き形状の検討もなされ,良好な絞り加工となる打抜き形状も特定できた.予定通り,H29年度に打抜きのための金型は精密加工の外注を行って,試作する予定である. 半球までは行かなかったが,80%程度絞った卵パック形試験片を作製して,それを積層し,接着剤にて固化成形した成形体を作製した.9個の半球の卵パックのため小さい試験片だが,圧縮試験を行い,良好なプラトー応力が得られることが分かった.この試作,圧縮特性試験はH29年度計画にあるもので,前倒しで実施したことになる. 実際の試作はH29年度計画であったが,前倒しで実施できており,当初の計画以上に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
H28年度で特定した打ち抜き孔を開けた薄鋼板にて半球絞りを行い,有限要素解析通りに絞り加工の限界が向上したかを実験にて確認する.向上した卵パック形鋼板を積層固化して,予想した成形体を得る.H29年度計画の残りである曲げ試験についても,試作して3点曲げおよび4点曲げを実施して,固化成形体の機械的特性を評価する. 期待する性能として,プラトー応力が65%以上出ること,引張りや曲げにおける引張り応力によって破断する限界値が向上することが目標であり,だめであれば,打抜き形状や固化成形時の接合方法などを変更する.その最適化によって目標の性能を満たすものができれば,H29年度のみならず,H30年度計画の一部まで終了するため,随時前倒しで検討する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
自身が実施している他の研究において,H29年度は共同研究費,受託研究費などの外部資金が入手できたが,それにより,情報収集など分野内の学会講演大会等に参加するための旅費等において,そちらの経費で出張できたため.なお,装置試作のための費用として,精密金型費用としてH28年度に多く見積もっていたが,前倒しで研究は実施できたものの,精密金型を試作するまでの前倒しはできなかったため.
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次年度使用額の使用計画 |
有限要素シミュレーションで検証した打抜き加工のための金型試作として,H29年度に使用する.シミュレーションでは,破断の解析は,その材料の破断予測式が一般に確立されておらず,完全ではない.したがって,あくまで傾向しか分からず,実際の絞り加工の成形限界を確認するには,2~3種類の打抜き形状の金型を試作しなければならない.絞り加工とは異なり,打抜き用の精密金型となるため,高額であるが,予備試験用の9個の半球でも上下1セットで40万程度かかる予定のため,それに当てる.不足分は外部資金の獲得に努力する.
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