研究課題/領域番号 |
16K06018
|
研究機関 | 日本工業大学 |
研究代表者 |
神 雅彦 日本工業大学, 工学部, 教授 (80265371)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 次世代半導体基板 / SiC単結晶 / サファイア / 超音波振動 / 半固定砥粒研磨 / 研磨効率 / 研磨面 |
研究実績の概要 |
本研究の趣旨は,次世代半導体基板となるSiC,サファイアなどの単結晶基板を,従来の酸化剤や,あるいは高コスト要因となるプラズマエッチング,紫外線分解などの手法を用いず,純粋な力学的加工のみで高能率かつ高精度に研磨する手法を開発することにある.これまでの研究では,研磨定盤に回転と同時に半径方向の超音波振動を与えることで,研磨効率および研磨精度が飛躍的に向上することを基礎的に明らかにしてきた. 今年度の研究内容は,昨年度までの研究では,超音波振動研磨定盤に直径φ120mm程度のダイヤモンド電着砥粒を用いていたのに対し,より実用的な同研磨定盤の開発を試みた.すなわち,直径がφ400㎜以上で,振動数38kHzで半径方向に超音波振動し,研磨パットにはシリカの遊離砥粒用のもの,および砥粒を半固定保持できるものの2種類の開発を行った. その研究成果は,FEM振動解析手法を用いて,周波数38kHzの3次の振動モードで呼吸振動する研磨定盤を構築し,それが実際の研磨装置に設置して2インチサイズのウエハー研磨ができることを確かめた.振動試験の結果では,得られる振幅が外周付近で0.2μm程度となることがわかった.すなわち,この値は理論解析や基礎実験で実施した振幅に比べ1/20程度に低い値であった.この振幅をより向上させることが今後の課題となった. 研磨実験結果では,振幅不足の課題により,十分な研磨レートを得るには至らなかったが,超音波振動の効果を確認することができ,研磨効率が向上することおよび研磨面が向上することなどを大型の研磨定盤において明らかにすることができた. この研究成果は,提案手法を実用化するための目途を明らかにした点において高い意義があり,重要な研究成果であると考えられる.また,次年度における課題点をも明確にすることができた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的は,次世代半導体基板となるSiC,サファイアなどの単結晶基板を,従来の酸化剤や,あるいは高コスト要因となるプラズマエッチング,紫外線分解などの手法を用いず,純粋な力学的加工のみで高能率かつ高精度に研磨する手法を開発することにある.本研究では,その手法として,研磨定盤に半径方向の超音波振動を援用することを提案し,その効果の実証,理論的論証,実用化手法の提案を行うことを目標にしている. 当該年度においては,主として理論を裏付けるための基礎的な試験に関しては,前年度に試作した直径φ120㎜のダイヤモンド電着定盤を用いて実施した.その結果,研磨効率の向上理論,砥粒の摩耗低減に関する理論を実証することができた.その研究成果は,砥粒加工学会,精密工学会での口頭発表や研究会での発表において公表した.これらの成果をもって,目標を達成していると言える. 次に,実用化装置の開発に関しては,直径がφ400㎜以上で,振動数38kHzで半径方向に超音波振動し,研磨パットにはシリカの遊離砥粒用のもの,および砥粒を半固定保持できるものの2種類の開発を行った.これらは,直径2インチのウエハー基板の研磨に適用できるものであり,かつ実際に研磨装置に搭載できることも確認している.さらに振幅不足の課題も新たに発見されている.なお,成果の公開に関しては次年度の課題としたい. 前述の実用化研磨定盤を用いた研磨性能に関する検討においては,振幅不足の課題が解決途上であるため,計画した多くの実験が次年度に実施されることとなった.具体的には,振幅と研磨レートとの関係,同切りくず形状との関係,および研磨面性状との関係などである. 課題はまだ多いが,それらを総括すると,実用化のめどをつけた点において,おおむね目標を達成しているといえる.
|
今後の研究の推進方策 |
提案する超音波振動研磨法を実現するための実用化装置の開発に関しては,直径がφ400㎜以上の研磨定盤に関して振幅不足の課題が明らかになった.これを解決する方法としては,適用周波数を下げる方策を検討している.すなわち,当該年度で適用した振動数38kHzから約半分の20kHzを利用することを検討している.これにより,振動パワーを約4倍にすることができ,かつ波長が2倍になるため,原理的に振幅を約2倍にすることができる.次年度研究の前半では,この新しい研磨定盤の開発に取り組む. 研磨実験に関しては,当該年度で先送りした実験を,開発した大振幅研磨定盤を用いて実施する.具体的には,振幅と研磨レートとの関係,同切りくず形状との関係,振幅と砥粒摩耗との関係,および同研磨面性状との関係などである.研磨定盤には,遊離砥粒方式,電着方式,半固定砥粒方式などを用いる.比較対象は,振動の有無,酸化剤の有無などを対象とする. 理論を裏付けるための基礎的な試験に関しても,直径φ120㎜の研磨定盤を用いて並行して実施する.研磨レート向上の理論,研磨精度向上理論,研磨効率の向上理論,砥粒の摩耗低減に関する理論をまとめ,その研究成果を,砥粒加工学会,精密工学会での口頭発表や投稿論文として公表していく. 新たな周波数20kHzの研磨定盤の開発において,超音波振動子や超音波発振器などの設備や研磨定盤製作のためのアルミニウム素材が必要になることが懸念される.その際は,費用の観点から実験計画を若干修正し,必要な機材を新規導入することで対応することを予定している. 次年度は,研究の最終年度になるので,より高い研究成果が出せるよう軌道修正も含めながら,慎重に研究を実施していく.
|
次年度使用額が生じた理由 |
まず,超音波振動研磨法を実現するための実用化装置の開発に際して,直径がφ400㎜以上の研磨定盤に関して振幅不足の課題が明らかになった.そのため,予定していた実験の項目が,計画に対して半分程度にとどまり,試験材料や消耗品の購入費が900千円程度減少した.また,学会発表,研究調査等の旅費に際しても,100千円計上していたが,実際に必要になった費用が,それより少なくなったこと,その他費用にも100千円計上していたが,学会参加費や論文投稿費として必要となった費用が,それより少なくなったことによる. 次年度の研究経費使用計画として,研磨定盤の適用周波数を下げる方策に研究費を見込む.すなわち,当該年度で適用した振動数38kHzから約半分の20kHzを利用することを検討している.これにより,振動パワーを約4倍にすることができ,かつ波長が2倍になるため,原理的に振幅を約2倍にすることができる.次年度研究の前半では,この新しい研磨定盤の開発に取り組み,そのための装置として超音波発振器の購入を1,000千円程度の予算で見込む.一方,その後半では,学会発表,研究調査等の機会を増やし,論文投稿本数を増やすなど,より活発に研究発表したく,そのための旅費とその他費用に充てる.
|