研究課題/領域番号 |
16K06021
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
井原 透 中央大学, 理工学部, 教授 (80134831)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 構成凝着層 / 難削材 / 核形成モデル / 凝着層成長モデル / 工具摩耗 / 工具欠損 |
研究実績の概要 |
切削開始から定常状態になる迄の間の摩耗経過および欠損進展経過の予測を行なう理論開発,および凝着現象の成長を促す条件を明らかにして凝着の工具刃先の保護効果を説明するという研究目的に対して,凝着層が工具すくい面と逃げ面に関する摩耗経過と欠損状況に多大な影響を及ぼすことは,昨年度確認できていたので,本年度はNi基合金(インコネル)などの難削材を対象に,焼入れ炭素鋼と同じく凝着層が工具摩耗の経過や欠損状況に多大な影響を及ぼすことを確認し,そののちに,炭素鋼における構成凝着層の核形成理論の流用が難削材の場合にも有効であるかどうかを検証した.そして,有効であると結論付けた論文を公表した. これとは別に,本年度は初期摩耗期間における逃げ面凝着現象の予測のための凝着層生成損傷モデルを作成して講演発表を行った.この発表内容は,前述の凝着層の核形成に引き続く,凝着層の成長モデルの作成に関連したものである.同成長モデルは加工現場で使いやすい簡便版となっているため,同モデルに基づくシミュレーションによって切削開始期間の摩耗経過および欠損進展の予測を簡単に行なうことができるようになるという意義を有する.本内容は本申請研究における重要な柱のひとつである. なお,欠損に関しては難削材のコバルトクロム合金を対象に欠損前に生ずる工具刃先の塑性変形に関する講演発表を行った.本研究申請段階では,欠損は工具材に負荷される応力から工具各部位の欠損確率が算出できるという描写であったが,本研究の観察において,非常に硬度の高い被削材の場合には切削開始直後に工具が変形することが分かり,同変形による工具面上応力分布の変化が予想される状況になったため追加された研究である.本研究は塑性変形による応力分布の変化がどの程度であるかを予測するために役立つという意義がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は切削開始から定常状態になる迄の間の摩耗経過および欠損進展経過の予測を行なう理論開発,および凝着現象の成長を促す条件を明らかにして凝着の工具刃先の保護効果を説明することにある.昨年度は工具刃先を保護する構成凝着層が摩耗や欠損を抑制する可能性のあることを確認し,焼入れ炭素鋼における構成凝着層の核形成モデルを提案して公表した.これに引き続き,本年度は同炭素鋼における構成凝着層の核形成理論がそのほかの難削材に関しても適用できることを確認し,公表した.これらの点については申請計画通りであると判断される. 次いで,核形成後の凝着層の成長モデルについても,工具すくい面と逃げ面に関して凝着層生成損傷モデルを作成することができたので,講演発表を行った.この理論は初期摩耗期間における逃げ面凝着現象の予測のために必要であり,同モデルに基づくシミュレーションによって切削開始期間の摩耗経過および欠損進展の予測を簡便に行なうことができるようになると考えられる.特に同モデルは簡単に加工現場で測定できるパラメータから構成されているので使いやすいものとなっているので今後の研究に役立つと考える. 構成式の作成に関しては,摩耗は工具表面への負荷サイクルによって工具が劣化した後に摩耗粉が生ずるという概念のもとで摩耗経過を同定するというものであり,最終目的は達成できるものと判断される.欠損は工具材に負荷される応力から工具各部位の欠損確率が算出されるというものであるが,コバルトクロム合金のような非常に硬度の高い被削材の場合には切削開始直後に工具が変形するので,工具面上の応力分布の変化が想定され,現在,変形量の予測法を検討している.変形量が予測できればシミュレーション等を用いることによって欠損予測ができるので,遅れの挽回はできる予定である. 以上のことより,進捗はやや遅れていると判断される.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,まず摩耗に関する構成式の完成を目標とする.次いで,欠損に関する構成式の作成を完成させる.後者の推進のためには,塑性変形量,応力分布の変化,破壊確率などを予測する手法を順次完成させる.最後に,摩耗に関する構成式と欠損に関する構成式を重畳する.具体的には以下の工程順となる. ①摩耗構成式の完成 (1)定常期間の凝着層無し摩耗の構成式化 (2)凝着層の予測 (3)凝着層有り摩耗の構成式化 (4)初期期間の摩耗量による検証 ②欠損構成式の作成 (1)塑性変形量の予測 (2)応力分布の予測 (3)凝着層および工具材負荷応力の予測 (4)破壊確率の算出 (5)実験結果との比較 ③摩耗構成式および欠損構成式の重畳 (1) 生成エントロピー算出に基づいた作成した摩耗構成式および欠損構成式の重畳 (2)総合的検証実験
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