研究課題/領域番号 |
16K06026
|
研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
瀬戸 雅宏 金沢工業大学, 基礎教育部, 講師 (90367459)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 射出成形 / 異種材料接合 / 融着 / アンカー効果 / CFRP |
研究実績の概要 |
地球温暖化および大気汚染の問題が深刻化している中,自動車部品の軽量化技術の開発が積極的に行われている.自動車部品の軽量化の方法として,金属部品の樹脂化や高強度材料の適用による薄肉化等が挙げられるが,部品の使用環境によっては部分的に金属材料を使用し,高機能化と軽量化を両立させる必要がある.そのため,樹脂材料と異種材料の接合技術が求められている.研究代表者らは,樹脂材料と金属材料の接合について,成形と接合を同時に行うアンカー効果による接合技術の研究を進めてきた.しかしながら近年では,CFRPなど高強度材料や耐熱性の高い高機能樹脂材料が自動車部品に適用されてきており,射出成形による樹脂―樹脂接合技術が適用されれば樹脂材料の適用拡大と,それにともなう大幅な軽量化が実現できる可能性がある. 本研究では,樹脂部品を射出成形金型内にインサートして射出材との接合と成形を一体で行う射出成形樹脂―樹脂接合技術の確立を目的としている.具体的には,インサート樹脂材料の接合部表面を射出材の熱でわずかに溶融させて融着による接合とアンカー効果の相乗効果による高強度な接合技術の確立を目指す.本年度は,樹脂-樹脂接合において表面の融着によってどの程度の接合強さが得られるかを検討するため,代表的な樹脂材料であるポリプロピレン樹脂(PP),ポリアミド樹脂(PA),さらにポリアミドを母材とした熱可塑性CFRPを供試材料として,射出成形ならびにホットプレス成形により接合し,その接合強さを評価した.その結果,同一材料同士の接合では,接合強さは高くなるが,異種材における接合では低くなる傾向を示した.これらの結果から,樹脂接合部表面の融着による接合強さの向上には限界があり,アンカー効果による接合も併用し,相乗効果で接合強さの向上を図ることが必要であることが確認された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では,同一材料および異種材料における樹脂-樹脂接合の可能性と接合強さがの実力値を調査した.対象とした樹脂材料は,自動車部品の樹脂材料として最も多く使用されているポリプロピレン樹脂およびエンジン周辺の樹脂部品に使用されているポリアミド樹脂(PA)を対象とした.予備実験として,接合部表面を十分に融着させるため,射出成形ではなくホットプレスにより溶融加圧して接合させた.プレス温度280℃,加圧力0.1MPa,加圧時間3分とし,接合面を十分に溶融させて加圧し接合させた. PP-PP接合では,接合強さは15MPa程度であったが,PA-PA接合では,25MPa以上の接合強さが得られ,PAの方が接合強さは高くなることが確認された.これは材料の濡れ性の影響ならびに溶融時の粘度の影響を考察された.一方,PA-PP接合(異種材接合)においては,2MPa程度の接合強さしか得られなかった.これは,PPが異種材料との濡れ性が低いことに起因しているものと推察される.これらの結果から,アンカー効果も併用した接合が必要であることが確認された.また,接合材を射出成形金型にインサートし,射出樹脂との接合も検討した.その結果,同一樹脂であるPA-PA接合では6MPa程度,異種材であるPP-PA接合では,3MPa程度の接合強さであり,ホットプレスと比較して接合強さは低くなった.この結果から,射出成形による接合では,射出樹脂の熱量だけではインサート材表面の材料を溶融させるだけの十分な熱量が得られず,金型内にヒータを併用した接合技術が必要であると判断した. 本年度は,樹脂表面のレーザー処理によって結晶化度を制御し,融点を局所的に低下させて溶融接合の促進を検討する計画であったが,次年度において新たにヒータ容量を再検討した金型の製作の必要性も生じたため,本年度は射出成形による樹脂-樹脂接合の検討を重点的に実施した.
|
今後の研究の推進方策 |
28年度においては,樹脂-樹脂接合技術の可能性と現状の接合強さの実力値を検討するため,自動車に使用されている代表的な樹脂材料であるポリプロピレン樹脂(PP)およびポリアミド樹脂(PA)を供試材料として,ホットプレスならびに射出成形によって検討した.その結果,特に本研究の目的である接合材を金型内にインサートし,射出成形によって射出材とインサート材を接合する樹脂-樹脂接合では,インサート材表面接合部の樹脂を溶融させるための熱源は射出成形機から充填された射出樹脂のみであり,その熱量だけでは,接合部の樹脂を十分に溶融させて接合させることは難しいことが明らかとなった.このことから当初の計画であった射出材の熱量によってインサート材のとの溶融接合の実現には新たにヒータを金型内に埋設した方法を検討する必要があると判断した.そのため,計画の一部を見直し,現状の実力値把握と新たな金型に必要な基礎実験を行うこととして推進した. 29年度においては,今年度得られた知見を基に金型の設計およびヒータを選定し,射出成形による樹脂―樹脂接合の接合強さ向上について研究を進める.具体的には,ポリアミドおよびポリプロピレン,さらに耐熱部品に使用されポリフェニレンサルファイド樹脂を供試材料としてインサート射出成形による融着接合を検討する.また,28年度の継続課題であるレーザー処理による樹脂表面の結晶化制御および凹凸形状の加工方法を検討し,融着に加えて凹凸部への射出樹脂流入によるアンカー効果による接合強さ向上を検討する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では,接合樹脂材料を射出成形金型にインサートした樹脂-樹脂接合において,接合部の溶融を促進するためのヒータを埋設した金型入れ子を製作し,接合強さに与える影響を検討する予定であった.しかしながら,まずはインサート射出成形における樹脂-樹脂接合実現の可能性を確認する必要性が生じた.また,種々の材料に拡張することを想定し,インサート樹脂を溶融させるための金型構造およびヒータも検討する必要がった.そのため,本年度は既存設備を流用しこれらの基礎データを確認することに重点を置き,その結果を踏まえて次年度において確実な実験が行える金型の設計およびヒータの選定を行うこととした.以上の理由から,本年度の支出計画に差異が生じた.
|
次年度使用額の使用計画 |
本年度の検討結果を基に,確実な射出成形による樹脂-樹脂接合の確実な実験検討が実施できるように金型入れ子を新たに設計・製作する.また,確実にインサート材表面の樹脂を溶融できる容量を有するヒータおよびその周辺設備を導入し,インサート射出成形における樹脂-樹脂接合一体成形技術の確立を加速させる.また当初の計画であったレーザー処理による表面凹凸形状の形成と凹凸部への樹脂流入挙動の観察実験を行うための設備を棒入し,融着およびアンカー効果の相乗効果による接合強さへの影響を進め,無駄の無い予算執行に努める.
|