本研究課題では,エッチング刃(極小刃を有する薄板部品)やミニチュアガイドレールなどの薄物小型部品に対して,刃先部や転動体接触部など製品特性として必要な箇所だけに均一な高硬度分布を形成することと,部品としての高形状精度を両立すること,そしてこれを低環境負荷で製造する工法を確立することを最終目的とした.平成30年度は,前年度に引き続き,炭素鋼材製の単純形状工作物(板状工作物)を用いて,レーザ照射条件が変形と硬化領域に及ぼす影響について理論と実験の両面から明らかにする取り組みを実施した.なお,前年度はレーザ走査方向のみの評価であったが,本年度はレーザ走査方向に垂直な方向の評価も含めることで,評価対象を平面に拡張して研究を進めた.その結果,レーザ走査方向よりも垂直な方向の変形が顕著であること,平面で見た場合には3次元的に曲率の正負が混在する複雑な変形挙動を示すことが明らかになった.これをもとにダミー照射法について検討した結果,工作物両面に同じ方向に走査照射するだけでなく,走査方向も含めてレーザ照射条件を適正化する必要があることが示唆された.また,本手法の環境負荷についても検討した結果,熱処理時の消費電力量のみならず処理時以外の消費電力量も含めたトータルでの環境負荷は,競合する焼入れ技術である炉焼入れや高周波焼入れに比べてレーザ焼入れの方が低く,本手法は低環境負荷で製品製造できる手法であることが示唆された.以上のことから,薄物小型部品に対して,必要な箇所だけに高硬度分布を形成することと,部品としての高形状精度を両立すること,そしてこれを低環境負荷で製造する工法を確立することができた.
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