研究課題/領域番号 |
16K06032
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研究機関 | 東京都立産業技術高等専門学校 |
研究代表者 |
吉田 政弘 東京都立産業技術高等専門学校, ものづくり工学科, 教授 (80220680)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 放電加工 / 絶縁体 / 石英ガラス / 3方向同時観察 / カーボン被膜 / 長パルス放電 |
研究実績の概要 |
透明度が高い石英ガラスを用いて,絶縁体の放電加工の極間隙の加工現象の観察を行っている.これまでに,高速度カメラと放電波形の同時観察を行い,絶縁体放電加工特有の長パルス放電の役割を明らかにし,絶縁体放電加工の加工メカニズムの深い考察した.その結果,長パルス放電の後の通常放電が集中し,加工精度を悪化させていることが分かった.放電が集中する原因は,長パルス放電で生じた熱分解カーボンのためである.一方で,長パルス放電は絶縁体の放電加工面にカーボン被膜を生成する役割を果たしている.すなわち,カーボン被膜生成に必要な熱分解カーボンが存在すればよい.そこで,長パルス放電の発生頻度を下げて放電の集中の防止を試みた.なお,長パルス放電の頻度を下げるには,極間に投入する放電エネルギーを少なくすればよく,放電電流かパルス幅を小さくすれば実現できることが分かった.そこで,極間に投入する放電エネルギーを減らし,全放電回数の8%を占めていた長パルス放電を4%に半減させたところ,30%以上あった集中放電の割合を10%にまで減少させ,形状精度の向上が実現した.しかし,放電エネルギーを減少させすぎるとカーボン被膜が生成されず,放電が持続しない.そのため,カーボン被膜の生成に影響を及ぼす電気加工条件の解明が重要となった.それには,放電面に生成されるカーボン被膜の生成時の観察が必要である.そこで,石英ガラスの穿孔放電加工における,X-Y-Zの3方向同時観察が行える測定システムを開発した.本装置に用いた顕微鏡カメラは,最大倍率200倍,毎秒30フレームのものである.3方向の同時観察の結果,パルス幅よりも放電電流値の影響が大きいことが明らかとなった.また,30フレーム/秒のため,1フレームに6000発の放電が残像として記録に残る.この撮影結果から,放電点は,ランダムではなく網目のようになることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
微小な穿孔穴を加工する放電加工の開発が目的であった.しかし,高速度カメラによる極間隙の観察と放電波形の同時観察に成功し,絶縁体の放電加工のメカニズムを明らかにすることができた.具体的には,絶縁体放電加工特有の長パルス放電の役割を明らかにするとともに,その波形が過度に生じると,放電集中により加工精度の悪化を招くことが分かった.よって,長パルス放電の頻度を下げることが重要であり,それには,極間に供給する放電エネルギーを下げればよい.実験の結果,長パルス放電の頻度を半減させることで,放電集中の割合が20%減少し,形状精度の向上が実現した(ISEM19,2018で発表). 次に,絶縁体放電加工では放電を持続させるために必要なカーボン被膜生成過程の観察を3方向同時観察装置を製作して試みた.その結果,カーボン被膜生成過程が明瞭に観察でき,パルス幅よりも放電電流値が及ぼす影響が大きいことが明らかとなった.これにより,長パルス放電の割合を更に減少させながらもカーボン被膜の生成が可能となる.ここまでの成果を,来年のISEM20(2020)にて発表する. 3方向同時観察装置では,30フレーム/秒の顕微鏡カメラを用いている.このカメラは200倍に拡大可能で,放電加工の微小な極間隙も撮影することができる.また,1フレームにつき6000発の放電が残像として残る.その結果,世界で初めて放電の分布状況を直接的に明確に捉えることができた.具体的には,ある規則性を持って網目状に放電が生じることが分かった.これにより,研究方針も変更する必要が生じた.これが分かっただけでも評価に値する.
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今後の研究の推進方策 |
3方向同時観察装置を用いて,絶縁体放電加工のカーボン被膜の生成過程を明確に観察することができた.カーボン被膜は長パルス放電時に主に生成される.観察の結果,カーボン被膜生成に影響する電気加工条件は,第一に放電電流であることが分かった.また,長パルス放電の放電頻度の割合を下げれば,放電集中が減少し,放電加工の形状精度が向上する.そこで,今後は,長パルス放電の割合の減少の度合いと加工精度の関係を明らかにする. 次に,世界で初めて放電点分布の直接的な観察に成功した.この成果を基に,放電点を決める因果関係を明らかにすることを試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究初年度において,絶縁体放電加工の加工現象の観察が実現し,放電加工メカニズムを明らかにし,絶縁体特有の長パルス放電の役割と弊害の解明が行えた.これにより,研究目的を絞り込め,そのための放電加工極間隙の観察装置の製作費が抑えられたことが大きい.なお,製作した観察装置により,放電点分布の直接的な観察を世界で初めて実現した.そのことにより研究目的が更に明確になった.具体的には,放電点を決定する因果関係を明らかにしていく.そのために,研究期間を1年延長し予算を有効に活用する. 今年度の使用計画は,放電点決定の因果関係を解明することにある.そのためには,数多くの単発放電痕の観察が重要と考えられる.そこで,レーザ顕微鏡の購入に利用する.
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