研究課題/領域番号 |
16K06040
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
青木 才子 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (30463053)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | トライボロジー / 指の摩擦 / 分子膜 / パターニング / 人間の感覚 |
研究実績の概要 |
本研究では,分子膜のパターニング表面における指のすべり摩擦特性について,指の接触状態のin situ観察と摩擦力の力学的測定の両面から明らかにして,摩擦抵抗により生じる操作感との定量的相関を確立することを目標とする.本研究を,(1)指のすべり動作における指の接触状態のin situ観察と摩擦特性の評価,(2)分子膜のパターニング表面の作製と最適設計指針の検討,(3)指の摩擦特性と操作感の定量的相関の確立に分類し,それぞれ並行して進めていく. 平成29年度は,分子膜被覆部分の幅や間隔,高さ分布が異なる種々のパターニング表面を作製し,試作した装置により摩擦測定を実施することを目的とした.まず,前年度検討した圧電式3成分力センサと接触面の動画撮影を組み合わせたタッチトライボロジー試験機の基本構造の原案に基づき,既存の平板型3分力計を用いて組立を行った.試作後にガラス基板により予備試験を実施したところ,既存の装置にはないモータの振動の影響が現れることがわかった.次年度以降に得られた結果をフィードバックして構造の最適化を図るとともに,高速度カメラ等を導入して接触状態を可視化する方法を検討する. 次に,前年度に考案した2つの作製方法(マスキングテープ法および反応性イオンエッチング法)を用いて,分子膜被覆部の幅および間隔が異なるストライプ状のパターニング表面を作製し,既存の平板型摩擦測定装置により指の摩擦を測定した.分子膜被覆部の幅や間隔により分子膜の被覆率が変化し,指との接触界面におけるせん断強さや垂直荷重に相関的な変化をもたらすことが明らかになった. さらに,10人程度の研究対象者に対して,パターニング表面を用いた指の摩擦測定を実施し,ストライプ状分子膜被覆部の幅や間隔が摩擦特性だけでなく,人間の摩擦刺激に対する応答動作にも影響を及ぼす因子であることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は,初年度に考案した装置の基本構造に基づき,装置の組立を行った.モータの振動などの課題も浮き彫りになり試験機は未完成であるが,指の接触状態の可視化に向けた高速度カメラの導入方法も考案済みであり,装置の完成への目処は立っている. また,既存の平板型3分力計を使用した摩擦測定装置により,初年度に確立した方法にて分子膜被覆部の幅および間隔が異なるストライプ状のパターニング表面を作製し,10名程度の研究対象者による指の摩擦測定を実施することに成功した.結果として,分子膜被覆部の幅や間隔は分子膜の被覆率に大きく寄与し,被覆率の変化はパターン部と非パターン部の界面せん断強さの差(変化率)に影響し,その結果,指に負荷する垂直荷重に変化が現れることが明らかになり,分子膜被覆部の幅や間隔などの界面のせん断強度に変化を与える因子が人間の摩擦刺激に対する応答動作にも影響を及ぼすことが示唆された.以上から,本研究はおおむね予定どおり進展しているものと思われる.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成30年度は,全体の総括として,試作した装置を用いた指の摩擦測定により指の摩擦と操作感の比較評価を実施し両者に関連する潜在的刺激因子を洗い出し,定量的相関について言及する. (1)指のすべり動作における指の接触状態のin situ観察と摩擦特性の評価では,新規装置の試作として,前年度までに浮き彫りになった課題(モータの振動等)を解消するため,構造の再設計を検討するとともに,高速度カメラを導入して由布の接触状態の可視化が可能となる装置の完成に取り組む.また,試作した装置を用いて,分子膜被覆部の幅や間隔(周波数),配置角度などが異なる種々のパターニング表面を用いて,20名程度の研究対象者による摩擦測定を実施し,より多くのデータ収集を試みる.特に,誤操作によるデータのばらつきが生じないよう測定条件を明確にして,性別,年齢を問わず,幅広い層で多数の被験者によるデータ収集を心掛ける. (2)分子膜のパターニング表面の最適設計分子膜のパターニング表面の作製と最適設計指針の検討では,実際の使用環境下を想定して,指の摩擦以外の分子膜の劣化・機械的剥離に対する耐久性の評価を検討する.また,固体表面としてガラス以外の材料におけるパターニング表面の作製についても検討する. (3)指の摩擦特性と操作感の定量的相関の確立では,上記(1)の摩擦測定により得られた力学データから操作感を表すパラメータに変換して定量化し,摩擦力など力学データとの比較評価を試みる.両者の相関を表す刺激因子を抽出して,その因子の関数として摩擦と操作感を表現することを検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)平成29年度では,新規装置の組立において年度末近くに課題が明らかになり装置の部品等の購入に間に合わなかったこと,人を対象とした指の摩擦測定について研究対象者が予定人数に満たなかったことなどから,物品費および人件費に未使用見込額が発生した.平成29年度はこの未使用見込額を物品費に計上して,新規装置の種々の部品に使用予定である. (使用計画)平成29年度において,物品費は新規装置の部品等に使用する他,摩擦試験関連消耗品,ガラス基板や薬品など分子膜作製用消耗品として使用予定である.また,旅費は,本研究の成果発表として,1回の国内会議での発表による出張費として使用する.謝金・その他では人を対象とした実験の研究対象者への謝礼金として使用する予定である.
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