超強加工による微細結晶粒材料は、合金元素に頼らずに従来の粗大粒材(結晶粒径が数μm以上)と比較して高強度を示すため、環境資源・エネルギー問題の観点から次世代の構造材料候補として注目されている。超強加工には、バルク材を対象にしたバルクナノメタルと、材料表面を対象にした摩擦加工がある。そこで本研究では、バルク材を対象とした超強加工であるHPT(High Pressure Tousion:高圧ねじり)加工と、材料表面を対象にした摩擦加工であるバニシング加工に着目し、それらにより作製した微細結晶粒をもつ炭素鋼S45Cの凝着力試験と摩耗試験を行い、そのトライボロジー特性(凝着力・摩擦係数・耐摩耗性)を比較することを目的とした。 HPT加工材では粒径が0.3~0.5 μmの試験片、バニシング加工材では粒径が0.5~1.0 μmの表層を持つ試験片を得た。なお、比較のため、S45C焼ならし材、焼入れ焼戻し(QT)材も準備した。 凝着力試験では、板ばね方式により真空中でSUJ2ボールをS45Cディスクに押し付けて摩擦させた後の引き離し力を測定した結果、HPT加工材の凝着力は焼ならし材・QT材と比べて若干大きかったが、その差は小さくほぼ同等だった。一方、バニシング加工材の凝着力はHPT加工材と比べて非常に高く最も大きな値を示した。 摩擦摩耗試験では、アルゴンガス中のボールオンディスク方式により摩擦係数と摩耗量を求めた。HPT加工材のデータを除くと、焼ならし材、QT材、バニシング加工材は硬さが上昇すると摩耗量は少なくなるという一般的な傾向があった。一方、HPT加工材は硬いにもかかわらず摩耗量が多いという特異な現象を示した。また、摩擦係数が高くなるほど摩耗量は大きな値になるという傾向があったが、HPT加工材はその傾向よりもさらに大きな摩耗量を示した。
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