研究課題/領域番号 |
16K06090
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
脇本 辰郎 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 准教授 (10254385)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 抵抗低減 / 界面活性剤 / ミセル / 蛍光測定 |
研究実績の概要 |
界面活性剤水溶液の円管内流れにおける抵抗低減は,ミセルがせん断流中でせん断誘起構造(以下SISと表記)と呼ばれる特異な構造を形成し,乱流への遷移を抑制するためと考えられているが,流動中のミセルの構造変化を捉えることは難しく,抵抗低減機構の解明は十分になされていない.そこで,本研究では溶液に疎水性の蛍光分子であるピレンカルボキシアルデヒド(以下PCA)を添加し,蛍光の変化からSISの形成・消失の検出を検討した.PCAは紫外線励起により可視の蛍光を発するが,CMC以上の溶液ではPCAがミセル内に取り込まれて蛍光強度が減衰する.本研究では,SISの形成によるさらなる蛍光変化の可能性を考え,これを確かめた.SISが生じると一般に液体の粘度が上昇することから,細管粘度計を用いて活性剤溶液の粘度を測定するとともに,管内を流れる溶液の蛍光強度も測定した.その結果,一定のせん断速度以下では溶液が静止している場合と蛍光強度の変化は無く,溶液の粘度も溶媒の粘度と一致するのに対して,せん断速度が一定値を超えると蛍光強度が低下し,粘度が上昇することがわかった.両者の高い相関から,SISの形成によっても蛍光強度が減少することを明らかにした.さらに,内径10mmの円管内流れを対象にして,管摩擦係数と蛍光強度の同時測定を行った.蛍光の測定体積を0.2mm立法程度とし,これをトラバースさせて円管内の蛍光強度分布を測定した.その結果,SISの形成により蛍光強度はレイノルズ数の増大ともに一旦減少するが,その後急速に増大して,静止時の蛍光強度に回復した.壁付近の蛍光強度が乱流遷移レイノルズ数で急増することから,壁付近のSISの崩壊により乱流遷移が生じたものと推察された.一方,管中心付近では,蛍光強度の減少や回復が壁付近よりも高レイノルズ数で生じ,管中心部ではSISの形成や消失が遅れることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね初期の目標どおりに,蛍光プローブ法によるSIS形成の検出を確立させ,蛍光強度と摩擦損失係数の同時測定を実施することができた.本研究の大きな目的としてSISの局所検出が挙げられるので,2016年度は特に高い空間分解能で蛍光を計測するための光学系の設計・製作を慎重に行った.可能な限り蛍光取得の測定体積を小さくするため,励起光である紫外線レーザーを収束させるための光学系や微小な体積から発せられる蛍光を集光するための光学系を製作し,測定体積を0.2mm立法程度のサイズにすることができた.この分解能で管内の蛍光強度分布を測定し,管壁近傍のSISが崩壊すると流れが乱流へと遷移することを明らかにした.このことから,管壁近傍のSISが乱流への遷移を抑制ものと推察される.CMC濃度200ppmに対して,0~400ppmの濃度の範囲で実験を行い,ミセルが形成されないCMC濃度以下では全く抵抗低減現象が現れないのに対して,CMC以上の濃度では上述したSIS形成と乱流遷移抑制との相関が見られた. 当初の計画では蛍光プローブとしてピレンカルボキシアルデヒド(以下PCA)の他にジフェニルヘキサトリエン(以下DPH)も用いて測定を行う予定であったが,現在の所PCAでミセルの構造変化を検出することができているため,DPHによる計測を保留している.PCAはミセルに取り込まれると蛍光が減衰するので,高溶液濃度では使えない.今後,より高濃度で実験を行う必要性があった場合にはDPHの使用も検討する.
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今後の研究の推進方策 |
今後は速度と蛍光強度の同時測定を行う.界面活性剤抵抗低減流れでは平均速度や速度変動の半径方向分布が活性剤無添加時のそれと大きく異なる上,ある位置を境に平均速度や速度変動が急変することが知られている.このことから流路断面内にSISが一様に形成されているのではなく,SISの形成層と未形成層が同時に存在するものと考えられてきた.2016年度における申請者の研究結果もSISの発達や消失が場所によって異なることを示しており,従来の速度計測から得られている推論と定性的に符合する.そこで,今後は蛍光強度の測定と速度測定を同時に行い,SISの発達や消失と平均速度や乱れ強さ等の速度統計量との関係について明らかにする.速度計測にはレーザー流速計を用いる.流速測定のためのトレーサー粒子が流れに及ぼす影響がまず懸念されるが,予備実験の結果からその影響はほぼ無視できることをすでに確認している.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初,蛍光プローブとしてジフェニルヘキサトリエン(以下DPH)も用いた測定も行う予定であったが,2016年度はDPHを用いた実験を保留した.また,蛍光をできるだけ局所的に測定するための光学系の設計・製作・調整に時間がかかり,実験回数が当初の計画より少なくなった.このため,2016年度内の費用の支出が少なくなり,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
2016年度は実験回数が少なかったため,2017年度は実験の再現性の検証や様々な溶液濃度でのSISの挙動把握のために十分な回数の実験を行う.これらの実験の実行に経費を使用する.また,2017年度にレーザー流速計による速度測定を行う予定であるが,壁付近のSISが乱流遷移抑制に強く影響していることがわかったので,壁面付近を特に高い分解能で速度計測する必要がある.そこで,レーザー流速計のプローブを移動させるためのトラバース装置の精度の向上に費用を充当する.
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