研究課題/領域番号 |
16K06103
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
坂下 弘人 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (00142696)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 二成分流体 / 限界熱流束 / プール沸騰 / 可視化 / 表面活性剤 |
研究実績の概要 |
水に微量のアルコールを添加した二成分流体を沸騰媒体として用いると,限界熱流束は飛躍的に促進される.このため,限界熱流束の受動的促進法として非常に有望である.しかし,二成分流体の沸騰では伝熱面近傍の気液構造に特異な変化が現れ,限界熱流束の発生は従来の知見では説明することができない.本研究の目的は,伝熱面上の気液挙動の可視化計測,および局所濃度分布の高精度測定を通して,二成分流体の気液構造に特異な変化を生じさせる要因を解明し,限界熱流束の発生と促進の機構を明らかにすることにある. 昨年度は,一昨年度に製作した可視化実験装置を用いて2-プロパノール水溶液の沸騰実験を実施し,伝熱面上のドライアウト過程が水の沸騰に比べて大幅に抑制されることを明らかにした.また,沸騰面近傍の温度測定系の高精度化を行い,測定した温度分布から2-プロパノールの局所濃度推定を行った.本年度は,2-プロパノールとは異なり水への溶解度に上限のある炭素数4以上のブタノールおよびペンタノールを用いてCHF測定実験および伝熱面の可視化計測を実施した.また,アルコールと同様に,微量の添加によって水の表面張力が大幅に低下する表面活性剤水溶液を用いて同様の実験を行った.その結果,ブタノールおよびペンタノール水溶液では2-プロパノールと同様にCHFは顕著に促進される一方,表面活性剤水溶液ではCHF促進は得られないことが分かった.また,伝熱面のドライアウト過程は,アルコール水溶液では水の場合に比べて大幅に抑制され,表面活性剤水溶液では水と類似の挙動を示すことが明らかとなった.以上の結果から,CHFの促進には伝熱面ドライアウトの抑制が密接に関わっており,これは表面張力自体の低下では無く,アルコールの選択的な蒸発によって伝熱面近傍に形成される濃度分布によってもたらされていると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一作年度(H28年度)は,伝熱面を下方から可視化する実験系を構築し,伝熱面上のドライアウト挙動の可視化測定が可能であることを確認した. 昨年度(H29年度)は,この実験系を用いて,伝熱面のドライアウト挙動の2-プロパノール濃度依存性を検討した.また,温度測定系の高精度化を行い,2-プロパロールの局所濃度を求めることが可能となった. 本年度(H30年度)は,2-プロパノール水溶液に加えて,ブタノールとペンタノール水溶液,および表面活性剤水溶液を用いた実験を実施した.その結果,二成分流体による限界熱流束の促進には,表面張力自体の低下ではなく,アルコールの選択的な蒸発による局所濃度分布の形成が関わっていることを強く示唆する結果を得た.なお,昨年度の実験において,伝熱面として用いているサファイヤ基板が高熱流束で破損することが判明したが,本年度中にこの問題を解決するまでには至らなかった.このため,アルコール水溶液の限界熱流束近傍での可視化実験には成功していない.ただし,この点を除くと期待通りの成果が得られており,おおむね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度(H29年度)の実験において,可視化実験で伝熱面に用いているサファイヤ基板が,その高い熱膨張率のため,高熱流束で破損することが判明した.本年度(H30年度)は,これを避けるために新たな伝熱面を用いた実験を計画していたが実現には至らず,各種アルコールを用いた二成分流体の可視化実験は,限界熱流束の60%程度の熱流束範囲に留まっている.次年度(H31年度)は,限界熱流束までの測定を可能にする新たな実験を実施する.これにより,熱流束の増大とともにドライアウト過程がどのように進展して限界熱流束に至るのか,その過程が水や表面活性剤水溶液と各種アルコール水溶液ではどのように異なるのかを明らかにする.また,水に任意の濃度で溶解する2-プロパノールと,水への溶解度に上限のあるブタノール(溶解度2mol%)およびペンタノール(溶解度0.46mol%)の各種水溶液で伝熱面近傍に形成される濃度分布測定を実施し,CHF促進との関連を明らかにする. 以上の測定により,2成分流体で特異な気液構造が発現する要因と限界熱流束促進機構の解明を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
「次年度使用額が生じた理由」 本年度(H30年度)は,サファイヤ基板の破損を避けるため,昨年度(H29年度)まで行っていた裏面に蒸着したITO導電膜による間接加熱とは異なり,ITO蒸着面を沸騰面とする予定であった.このためには,水との化学反応によるITOの変質を防ぐ必要があることから,ITO蒸着面に保護膜(Al2O3)を重ねて蒸着した伝熱面を作成する計画であった.しかし,この方法では沸騰面の透過性が低下し可視化測定が困難であること,および高熱流束では伝熱面の破損が避けられない可能性のあることが判明した.このため,新たな伝熱面を用いた実験で使用を予定していた経費を次年度(H31年度)に持ち越すことになった. 「使用計画」 次年度(H31年度)は,熱膨張率の極めて小さい石英ガラスにITOを蒸着させた伝熱面を作成する.石英ガラスはサファイヤとは異なり低熱伝導率のため,裏面からの間接加熱は困難である.このため,ITO蒸着面を沸騰面として,ITOの変質を防ぐために交流で加熱する.持ち越した差額分は,この伝熱面の作成と交流電源の購入費用に充てる予定である.
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