研究課題/領域番号 |
16K06117
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
田川 正人 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80163335)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 熱流体計測 / 可視化計測 / 温度センサ / 熱電対 / 時定数 |
研究実績の概要 |
「流体温度場スキャナ」は,筆者らによって開発された流体温度場の二次元可視化計測法であり,具体的には,多数の二線式熱電対を一列に配置した掃引可能な棒状プローブ(細線熱電対列)に適応応答補償法と画像計測を融合させることにより,取り扱いが容易で信頼性の高いことが特長である.適応応答補償法は,流速やプローブ掃引の速さによって大きく変化する温度センサの熱時定数を測定状況に応じて推定し,センサの応答遅れを正しく補償することを可能とするディジタル信号処理技術である.また,掃引中の棒状プローブの位置を画像計測で定量化することにより,任意の断面を適当な速度でスキャンしても温度信号の時系列データから空間的な温度分布を再現できる. 本研究では,流体温度場スキャナの空間分解能を高めるために,温度センサ(二線式熱電対)の総数を従来の8組から24組に増やすとともに,隣接するセンサの間隔を20 mmから4 mmへと狭くしたプローブを完成させて,ヘアドライヤーから噴出する高温空気流の温度場測定に適用した.その結果,測定精度が大幅に向上し,従来のプローブでは不鮮明であった温度場の非一様性を正しく可視化することに成功した. また,流速が急減する位置で流体温度がステップ的に変化する場合に,測定された温度分布の等高線が実際とは異なり彗星のように尾を引く問題について検討し,その原因が適応応答補償における時定数推定の誤差にあることを明らかにするとともに,数値シミュレーションによりこの現象の再現に成功した.現在,時定数推定におけるこの問題の解決に有効と考えられるいくつかの方法について検証している段階である. さらに,流体温度場スキャナの簡易版として,一組の二線式熱電対を測定対象場で自在に動かすことにより,塗り絵のように流体温度場の二次元分布をリアルタイムで可視化できる手法の開発に着手して,その有効性を検証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度には,適応応答補償法の理論的基盤の強化と流体温度場の三次元可視化に取り組む計画であった.しかし,高温噴流を測定対象として,様々な条件で流体温度場スキャナを試験したところ,流速が急減する位置で流体温度がステップ的に変化する場合に,測定された温度分布の等高線が実際とは異なり彗星のように尾を引く問題があることが判明した.そこで,この問題の原因究明を優先して研究を進めたところ,それが適応応答補償における時定数推定の誤差に起因して発生することを見出し,数値シミュレーションでこの現象を再現することにより実証した.この結果を受けて,現在,時定数推定におけるこの問題の解決に有効と期待される方法をいくつか提案するとともに,その有効性を実際に評価・検証しているところである. また,現在の流体温度場スキャナの簡易版として,一組の二線式熱電対からなる温度プローブを測定対象内で自在に動かすことにより,塗り絵のように流体温度場の二次元分布を可視化できる手法の開発に着手した.この手法は,現在の流体温度場スキャナでは実現困難なリアルタイム処理で流体温度場をディスプレイに提示できることから,簡便で実用性の高い可視化計測法として発展する可能性がある. 以上のように,現時点では三次元可視化に着手できていないものの,解決しておくべき重要な課題を見出し,その解決に有効と考えられる方法を具体的に検証できたこと,また,一組の二線式熱電対を自在に移動させて塗り絵のように流体温度分布を実時間で可視化する手法を開発できたことは,大きな成果である.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,一組の二線式熱電対を測定対象場で自在に動かすことにより,塗り絵のように流体温度の二次元分布を実時間で可視化できる手法の開発に着手して,その有効性を検証した.この手法は簡便で実用性が高いことから,今後も継続的に研究を進めて流体温度場を可視化計測する標準的な方法として確立したい. また,流体温度を測定対象の3次元空間に提示できる可視化計測システムの開発にも着手する.具体的には,高速度CCDカメラ2台を用いて,一組の二線式熱電対の位置を3次元空間で測定するとともに,熱電対出力を適応応答補償して,測定対象の3次元空間内に二線式熱電対が描く軌跡を流体温度に応じた色で表示する可視化システムを開発する.さらに,このシステムを基礎として,多数の二線式熱電対を一直線上に配置した温度プローブが描く曲面を,流体温度に対応する色で染めて提示する可視化システムを構築する. 飛行温度センサは家屋火災実験や大型燃焼装置など大規模空間の温度場を計測する方法である.これを実現するために,まず,その基礎となる技術の開発に着手する.飛行温度センサの概形は全長40 cmほどの矢であり,その先端に一組の二線式熱電対が装着される.開発段階では,飛行温度センサを天井から吊るし,振り子のように飛行させて試験する.この飛行温度センサ(プロトタイプ)の軌跡を高解像の高速度CCDカメラ1台を用いて2次元測定することにより,温度センサの飛行軌跡に沿った温度分布を測定対象の画像上に重ねて提示する計測システムを開発する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に,適応応答補償法の理論的基盤の強化と流体温度場の三次元可視化に取り組む計画であった.しかし,高温噴流を測定対象として,様々な条件で流体温度場スキャナを試験したところ,流速が急減する位置で流体温度がステップ的に変化する場合に,測定された温度分布の等高線が実際とは異なり彗星のように尾を引く問題があることが判明した.この問題の原因究明を優先して研究を進めたことから,三次元可視化に必要な高速度のカメラの購入を先送りすることになって当該の差額が生じた. 以上が次年度使用額が生じた理由である.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降に,流体温度を測定対象の3次元空間に提示できる可視化計測システムの開発に着手する予定であり,次年度使用額を使用して高速度カメラを新たに導入する計画である.
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