研究課題/領域番号 |
16K06123
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
向笠 忍 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 准教授 (20284391)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 液中プラズマ / 高圧水 / 高電圧パルス放電 / 海底資源 / 発光分光 |
研究実績の概要 |
大気圧を超える水中での放電現象に関する基礎的なデータ取得を目的として,前年度より,高電圧パルス放電方式を採用した,高圧水中での放電実験を行ってきた.昨年度は最大1MPaにおいて放電を確認した.その際,発光スペクトルを測定したところ,これまでの発光スペクトルとは大きく異なり,可視光域と紫外線域のそれぞれ2つの連続スペクトルが強くみられた.430nmにピークをもつ発光スペクトルは,高周波放電によるこれまでの研究で確認されており,水分子の励起発光によるものと考えられる.一方,270nmにピークをもつ連続スペクトルは,今年度に過去の研究を調査したところ,水素分子の励起発光によるものと推測できた. 当年度は,水中に設置した酸化金属粉末表面に放電電極を当てたときの,発光スペクトル中に金属成分が現れるかの確認実験と,塩化ナトリウム水溶液中での放電実験を行った.酸化金属粉末として現在所有している酸化亜鉛粉末と酸化アルミニウム粉末を使用したところ,亜鉛とアルミニウムそれぞれの発光スペクトルを確認することができた.今回の実験は純水中で行ったが,海水中で行う場合,ナトリウムの強い発光が現れることから,その影響を避けて分光測定を行う必要がある. これまで純水中で実験を行ってきたが,塩化ナトリウム水溶液中で同様の実験を行ったところ,0.001wt%まで薄めた状態でなければ放電は起きなかった.これは,導電率の高い塩化ナトリウム水溶液中では,電極から電流が流れてしまうために,高電圧にならなかったからである.そこで,電極の銅線をシリコンチューブで覆うことで,液と接する面積を極力減らしたところ0.01wt%で放電が起きるようになったが,海水と同等の濃度である3wt%では放電は起きなかった.そこで,現在別の方法で放電を起こすことを考えているが,予備実験において3wt%での放電を確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に引き続き,高電圧パルス放電法を用いた実験を大きく2つのテーマで行ってきた.一つは,水中でターゲット金属を含む粉末に放電を照射することでターゲット金属の発光スペクトルを取得する実験で,もう一つは,塩化ナトリウム水溶液中での放電を起こす実験である.実用化に向けた2つの実験において,おおむね予想通りの実験結果を得ることができた.現在報告している状況では,海水と同濃度での塩化ナトリウム水溶液中での放電は実現されていないが,予備実験において放電は可能となったことから,より詳細な実験を今後行っていきたい.また,発光スペクトルの分析において,今年度はおおきな進展はみられなかったが,今後も引き続き行っていきたい.
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今後の研究の推進方策 |
これまで海水中での放電実験は予備実験的な意味合いで大気圧下で行ってきたが,安定的に放電できる目途がついたことから,今後は高圧海水中で放電を起こすための実験を行う予定である.この際,これまでのガラス容器ではなく金属製耐圧容器を使用するため,放電を起こすための電気回路の特に接地位置について工夫が必要になると予想される.また,高圧海水中でこれまでと同様の酸化金属粉末表面で放電を起こす実験を行うために,電極形状についてさらなる工夫が必要になる.発光スペクトル測定においてナトリウムの強い発光に対しても対策する必要があるため,分光測定時の光学フィルターの選択や,発光スペクトルの分析を行う予定である.最終的に,実際に海の海底に沈めた状態で実験できる装置の設計を行いたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は,3月に複数の学会に参加する際の不測の事態を見越しての旅費等として若干の余裕をもって残していたためである.また,当初の計画と異なり,次年度に大規模な実験を行う予定となったためでもある.次年度は,高圧海水中で高電圧パルス放電を起こすことで材料等の損傷が大きくなり,消耗品費が増加するものとみられ,そのために使用する予定である.
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