高圧海水中でのパルス放電実験を行った.高い導電率を有する海水中で,少ないエネルギーで放電を起こすことは困難である.当年度,新たな放電発生方法として,放電回路とは別に水の電気分解用の回路を設置して,電気分解により発生した水素中でパルス放電を起こす方法を提案し実験を行った.電気分解用の回路において,鉛蓄電池2個を直列につなぎ,陰極側を-12V,陽極を+12Vとし,装置を0Vとする.陰極の銅棒から水素,陽極のPt細線からは次亜塩素酸が発生した.装置であるSUS製耐圧容器は電気分解による腐食は受けないと考えたが,白金線の表面積が小さいことや次亜塩素酸の影響により,装置から若干の腐食が生じた.一方,パルス放電用の回路において,これまでの接地電極を電気分解の水素発生電極(陰極)と共用し,パルス放電用の両電極を水素で充満させた.パルス放電用の電極間距離を電極間での放電を想定した1mm以下に調整したが,実際には放電は片方の電極と海水表面との間で発生することが多かった.本手法により耐圧容器の最大圧力1MPaにおいて3wt%のNaCl水溶液中で安定した放電が可能となり,発光スペクトルの測定を行った.次に,海底堆積物を模擬したZnO粉末またはAl2O3粉末表面に放電を当ててZnまたはAlの発光を確認をしたところ,Znの発光は確認できたが,Alの発光は確認できなかった.装置の腐食により生じたFeイオンは紫外線領域のAlの発光を吸収するためだと判明した.そのため,電気分解を行わずにArを導入して同様の実験を行ったところAlの発光を確認した. 本研究の目的は,高圧海水中下でのプラズマを発生手法と,それによる金属発光スペクトルの同定手法の確立であったが,目的は概ね達成したといえる.今後の課題として,装置からの鉄イオンと,高圧化での発光分光におけるスペクトル広がりの影響について調査する必要がある.
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