研究課題/領域番号 |
16K06127
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
光武 雄一 佐賀大学, 海洋エネルギー研究センター, 教授 (20253586)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 沸騰冷却 / 自発核生成 / 衝突噴流 / 高温面のぬれ / 遷移沸騰 |
研究実績の概要 |
材料製造プロセスをはじめ工業的に幅広く利用されている高温面の水噴流冷却は,近年除熱能力や冷却温度制御精度の一層の向上が要求されており,その実現には冷却過程を支配している高温面上での固液接触のダイナミクスの解明が課題となっている. 従来の高温面冷却の研究では,沸騰曲線上での膜沸騰から遷移沸騰を経て核沸騰に至る非定常遷移沸騰過程の特性点となる固液接触が開始される極小熱流束点に注目していた.しかし,高温面の外部流沸騰は,噴流よどみ点近傍での安定なぬれ面の拡大に対応した空間的不均質性の強い非定常過程のため,従来のアプローチでは不十分であった. そこで,本研究は高温面上での噴流冷却が生じるぬれ面を規定するぬれ先端近傍の伝熱素過程に注目し,1)ぬれと乾き状態を繰り返す非定常遷移沸騰と固体側二次元非定常熱伝導との連成問題,2)ぬれ先端の固気液界線(WF:Wetting Front)位置の挙動について,非定常計測による現象理解とそのモデル化を目指し,高温面噴流冷却技術の向上寄与を目指す.本年度の成果は,次の二点に要約される. 1)水の自発核生成温度を超えるNi高温面の噴流冷却実験装置を製作し,よどみ点直下およびWF近傍の固液接触界面温度の非定常計測と沸騰状況の高速度撮影を行い,WF近傍で生じるぬれと乾きに伴う温度変動周期を評価した.WF先端での50 ms程度の固液接触周期が急冷開始時には1ms程度の高頻度でぬれを生じ,急冷開始と固液接触周期との関連を明らかにした. 2)周期的に固液接触と乾き状態が繰り返される状況下で接触時間中に液体に供給される積算加熱量に及ぼす固液接触周期と一周期に占めるぬれ時間割合の影響を一次元非定常熱伝導計算で評価した.比較的大きな固液の熱浸透率比を取るNiを含む金属材料と水に対して,積算熱流束に及ぼす周期の影響は,ぬれ時間割合に関わらず高々1%と小さいことが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の課題は,1)自発核生成温度を超える高温面上の噴流冷却中における固液接触界面温度の実験計測技術の確立,2)高温面上での固液接触に伴う液体の急速加熱による自発核生成と固体側の非定常熱伝導モデルの構築 である.各課題に対する本年度の進捗状況は以下の通りである. 1)については,初期温度400℃,噴流直径1 mm,最大噴流速度9.4 m/s,サブクール度30-70 Kの範囲で実施し,Ni板表面の3μm直下に設置した薄膜熱電対(応答時間70μs)を用いて,固液接触境界で生じているぬれと乾きに対応した温度履歴を捉えることを確認すると同時に懸念されていた測温点の耐久性についても研究の遂行に支障ないことが確認できた.高速ビデオによる固液接触界面の拡大の画像解析と温度履歴データを重ね合わせに基づき,接触界線近傍の温度履歴と固液接接触頻度との対応関係が得られた. 2)については,1)で得られた固液界線近傍で生じる最短の固液接触周期1msに基づき1msオーダーの周期中に固液直接接触が生じるぬれ期間と蒸気生成による乾き期間の非定常熱伝導計算を行い,固液接触が繰り返される状況下での固体側から液体側への積算熱流束の評価を一次元非定常熱伝導解析で評価した.その結果,固液接触毎の積算熱流束は,過去の接触温度履歴の影響を殆ど受けない(その影響は1%以下)ことが分かった.個の結果により,積算熱流束は固液接触のぬれ期間と固液接触開始の表面温度のみに依存することが分かった.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の実験結果を踏まえて,Ni高温面上での噴流冷却装置を改修して高温面の姿勢を変更し,固液接触界面近傍の沸騰流動状況観察を容易にする.同時に,既存の光学観察装置を再設計してより鮮明な沸騰状況の高速度撮影を実施する.また,高温面上で同時温度計測を行う薄膜熱電対の位置を最適化して,固液接触界面近傍の詳細な表面温度分布を取得する. 一方,接触界線のモデル化については,噴流よどみ点から界線までの液膜流の流線に沿った固液間の軸対称二次元モデルと液膜内の自発核生成の連成計算モデルを構築する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度購入予定の光学測定用光学部品およびレーザー光源の購入を次年度に先送りしたためである.先送りした理由は,本年度における実験装置製作のスケジュールが半年以上遅れた結果,実験装置の観察対象と高速ビデオカメラレンズとの光路長に合わせてカスタマイズ設計を依頼しなければならない光学観察装置の納品が本年度内に終了できないことが明らかとなったためである.本年度は代替措置として,手持ちの光学素子とメタルハライドランプを用いて測定を実施した.
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次年度使用額の使用計画 |
本年度購入できなかった光学観察装置を次年度予算で購入する.また,申請時に次年度分として計上していた消耗品費についても当初の使用計画通り,薄膜熱電対を設置したニッケル高温面の製作に使用して,申請時の研究計画通り実験を遂行する.
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