本研究は,高性能な熱電変換材料を高速に製造するための新規製造技術の開発を目指し,その設計において基礎となる化合物半導体の結晶化プロセスの速度論構築を目的とするものである.研究の最終年度となる本年度では,サリチル酸アセトアミド溶液を供試した結晶成長過程のその場観察実験,ならびに熱電変換材料であるビスマステルル系合金を供試した新素材製造実験の結果を踏まえ,結晶化プロセスの速度論的考察を推し進めるとともに,本製造法によって得られた熱電変換合金の性能評価を実施した.主な成果内容を以下に示す. その場観察実験からは,過冷却場制御によって現れる化合物ファセット結晶の成長機構が,結晶周りに発達する温度・濃度共存場との関連のもとで明らかにされ,過冷却と外部冷却を熱的原資とするファセット状結晶の成長過程がモデル化された.このモデルは半導体などの凝固成形で現れる結晶成長の一般論を提示するものとして重要である. さらに本製造手法を用いて成形されたビスマステルル系の熱電変換合金は.ある一定の値以上の高熱流束下において熱電変換にとって有利な方位に結晶構造の配向性を整えたビスマステルライドの多結晶 層が形成されることが明らかにされた.その熱電変換特性を調査した結果,電気的性質であるパワーファクターが通常の凝固法と比べて増加することが検証され,熱電変換材料の高性能化と製造プロセスの効率化に対する本提案手法の有効性が明らかとされた.
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