研究課題/領域番号 |
16K06139
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研究機関 | 奈良工業高等専門学校 |
研究代表者 |
島岡 三義 奈良工業高等専門学校, 電子制御工学科, 教授 (80162486)
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研究分担者 |
中村 篤人 奈良工業高等専門学校, 電子制御工学科, 講師 (80619867)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 沸騰現象 / 蒸気膜崩壊 / 冷却特性 / インコネル600球 / 白金球 |
研究実績の概要 |
熱伝導率が高くないインコネル600を温度測定プローブ(直径4mmの球)とする場合の冷却特性評価試験システムにおいて,得られた冷却曲線の繰り返し特性は良好であり,インコネル600球の加熱の繰り返しにより形成された黒色酸化被膜は冷却特性の評価に影響を及ぼしていないことを確認した。また,ポリマー水溶液(ソリュブルクエンチTY-300A)について,冷却過程上の最大冷却速度は濃度が増大するにつれて直線的に低下することがわかった。冷却曲線から接線交差法によって求めた特性温度は蒸気膜崩壊温度に想定されるが,プローブ回転移動周速度によって変化することがわかった。本試験システムによるポリマー水溶液の新品と劣化品の識別は,特性温度で可能である場合と300~200℃での平均冷却速度で可能な場合があったが,確実な判断手法を確立するまでには至らなかった。 冷却剤を水とする場合の冷却特性を,インコネル600球プローブまわりの蒸気膜形成並びに蒸気膜崩壊挙動のビデオ観察によって調べた結果,蒸気膜の崩壊はプローブに埋め込んだ熱電対の脱落防止のために施したカシメの部分で開始し,プローブ速度の増大と共にプローブのよどみ点に向かって伝播的に崩壊していくことがわかった。また,金属の焼入れ過程で重要な膜沸騰極小熱流束点での熱流束と温度は,プローブ速度の増大に伴って強制対流の効果を受けて増大したが,サブクール度の依存性は認められなかった。なお,サブクール度とプローブ速度によっては偶発的に双こぶ型の沸騰曲線になる場合があり,冷却剤の冷却特性評価において注意しなければならない試験条件が存在することがわかった。 インコネル600より高熱伝導率で高温での酸化が抑えられる白金製のプローブを作成した。また,プローブ回転用モーターの高精度化と試験システム全体の高度な制御を目指してソフト開発を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
信頼性に懸念のあるインコネル600球プローブの繰り返し試験による冷却特性への影響は小さいことが確認できて良かった。最も懸念される高温酸化を抑止するための,また,蒸気膜崩壊のトリガ点をなくす目的でのSUS304製球プローブの製作とその白金メッキ化,並びに白金製球プローブの製作は実現した。併せて,現有試験システムの制御部分の高機能化を図り,制御プログラムの改良を手がけた。現有プログラムを利用できる部分を利用する構想が,ハードウェアを変更したことで,新規開発部分と現有プログラムの接続がうまくいかず,現在もそのトラブルの解消に取り組んでいるところである。これによって,白金球プローブとインコネル600球プローブとの違いの検証,2つの試験システムでの実験による試験システムの個体差の検証が実行できなかった。試験システムを構成するハードウェアと開発プログラムが同じメーカー品であることで,新システム開発を楽観視しすぎたかも知れない。 一方,球プローブまわりの蒸気膜の形成や蒸気膜の崩壊の様相をビデオカメラで観察した。フレームレートが1/30秒の商用ビデオカメラでもシャッタースピードの設定,補助光源やズームレンズなどの使用により観察できることがわかったものの,新試験システムの完成が遅れているため,球プローブを追従して観察できるシステムの設計が進まなかった。
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今後の研究の推進方策 |
新試験システムは,ハードウェアとしては2セット完成している。制御ソフトの開発が完成まであとわずかという感触を得ているので,制御ソフト開発プログラム提供メーカーのサポートを受けつつ,早期に完成させることが目下の緊急課題である。 制御ソフトが完成次第,2試験システムで実験を行い,個体差の有無を検証する計画である。実験条件は,伝熱工学(学術)的な観点だけでなく,熱処理業界における問題点を解明する観点から決定していく予定であるが,熱処理業界側の協力者はすでに確保できている。 熱処理用冷却剤は多数回使用されることが多いので,異物の混入,加熱・冷却の繰り返しにより冷却剤の質的変化が生じ,それに伴う冷却特性が変化する。熱処理現場としては熱処理品の品質保持のため,冷却剤の品質変化を冷却特性の変化から推測できればという要求がある。28年度は冷却曲線のみから冷却特性の変化を捉えられないかを検討したが,水での実験で,区別が難しい冷却曲線でも,沸騰曲線では明瞭な違いが出たことから,熱伝達率曲線や熱流束曲線(沸騰曲線)から冷却特性の違いを捉えられないかを検討していく。 球プローブまわりの蒸気膜形成並びに蒸気膜崩壊挙動について,プローブを追跡しながら,かつ高速度ビデオによる,昨年度より一層詳細な映像を獲得して,重力方向に対してプローブの姿勢が変化する強制対流下の膜沸騰現象を解明し,球プローブと球内埋め込みの熱電対保護管の接合形態の蒸気膜崩壊挙動への影響を明らかにしていく。プローブに追従して観察するための高速度ビデオカメラ保持方法並びに回転制御用モータの選定に目途が立ち,撮像装置一式の詳細設計にあたっているところである。
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次年度使用額が生じた理由 |
冷却剤の冷却特性を評価する試験システムのハードウェアをより高機能なものに更新し,それに伴う制御プログラムの一部を改善した。しかし,現有試験システムの制御プログラムとの接続においてトラブルが発生し,現在もその解決に至っていない。そのため,新試験システムで予定していた,プローブまわりの蒸気膜の形成並びに蒸気膜崩壊の様相を観察する撮像装置の開発を一次的に停止したために,当該助成金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
プローブまわりの蒸気膜形成等を詳細に観察するには,高速度ビデオカメラを使用し,プローブが移動するので,そのカメラをプローブに追従させる必要がある。このような撮像装置を構成する主要な物は高トルクモーターになる。高速度ビデオカメラの寸法と重量から,カメラを移動させるモーターは重量物になり,カメラとモーターを支持する架台も剛性を有する必要がある。現時点では幸いにも適切な高トルクモーターが選定できたので,架台等の詳細設計に入っており,外注製作を行って撮像装置の動作特性を調べる予定である。 試験システムの制御プログラムのトラブルも解消できる見込みがあるが,開発プログラム(LabVIEW)の専門家の知識も必要なので,プログラム開発の外注費用に充てる必要も検討している。
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