研究課題/領域番号 |
16K06139
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研究機関 | 奈良工業高等専門学校 |
研究代表者 |
島岡 三義 奈良工業高等専門学校, 電子制御工学科, 教授 (80162486)
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研究分担者 |
中村 篤人 奈良工業高等専門学校, 電子制御工学科, 講師 (80619867)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 沸騰現象 / 蒸気膜崩壊 / 冷却速度 / 熱流束 / 熱伝達率 / 白金球 / 強制対流非定常沸騰 |
研究実績の概要 |
角度分解能が粗いステッピングモーターの旧評価試験システムでのインコネル600球プローブまわりの蒸気膜形成とその崩壊挙動を高速度ビデオカメラで観察した。プローブの断続的な回転移動による振動で蒸気膜から蒸気泡が強制的に生成され,また,プローブから離脱させられることで熱伝達率や熱流束が大きく変動し,冷却剤の冷却能を精度良く評価することが困難であることがわかった。28年度に製作した白金球プローブの溶接部(白金球と白金パイプ)の脆弱性が明らかになり,改良したプローブを新たに製作した。また,ステッピングモーターを高角度分解能サーボモーターに変更すると共に,温度計測モジュール,サーボモーター等の制御ボードをArduinoから制御ソフト(NI社製 LabVIEW)と同じメーカーのmyRIOに変更し,より操作性を向上させた制御ソフトウェアへの改善も行った。 改良した新試験システムで,冷却剤の冷却特性を精度良く評価するための実験条件の探索を行った。本研究開始当初は,プローブの温度が冷却剤温度まで低下するまでの間中,移動させることとしていたが,ある程度高温段階で停止させた場合の冷却特性についても調査した。どの段階で停止させるかによって冷却特性は変化するが,その冷却特性の繰り返し性が必ずしも良好ではなく,最適冷却実験条件を確定するまでは至っていない。 新試験システムを2セット製作し,実験結果に及ぼす装置(白金球プローブ)の違いの有無の検証実験を行った。筆者らの設計を元にプローブが製作されていると思われるが,直径4mmの白金球内に微細な穴等の加工精度を検証できていないところもあり,同一冷却実験条件における冷却特性は大きく異なり,両プローブにおいて繰り返し特性も良くなかった。繰り返し特性の悪さは,プローブ径の小ささとデリケートな沸騰現象が相まったものと考えられ,新たな研究課題が見つかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に製作した白金球プローブの脆弱性を解消できた新プローブを製作できており,蓮客実験の繰り返し特性は改善された。しかしながら,複数個のプローブ間の特性に違いがあり,プローブの構造上の問題なのか,プローブ径が小さいことと,外部からの制御が困難な強制対流非定常沸騰現象が伴うことで,伝熱機構上の問題なのかを明らかにできていない。また,試験システムの制御ソフトの改良(プローブが冷却剤突入直前まで高速移動,後に設定速度で移動,プローブ追従用の第2のモーター制御機能付与等)も行ったが,誤作動の懸念があり,29年度内に解決出来ず,予定していた冷却実験を遂行できなかった。 プローブと制御ソフトのいくつかのトラブルがあり,プローブを追従しながらの沸騰現象の動画撮影システムの構築が遅れている。ただし,高速度ビデオカメラシステムの導入予算は確保できており,制御ソフトへの組み入れも目途が立っている。
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今後の研究の推進方策 |
30年度は本研究の最終年度になる。構築している2台の試験システムでの実験の合一性の確認をする必要がある。そのために,製作した白金球プローブの合一性の確認が最重要課題になっているので,非定常強制対流沸騰熱伝達の再現性がプローブ寸法に依存するのかどうかを確認していく。 白金球プローブに変更したことと,プローブ取り付けアーム回転用ステッピングモーターをサーボモーターに変更したことで,冷却実験において,膜沸騰段階での繰り返し特性が大幅に向上した。伝熱工学的に重要なポイントである膜沸騰極小熱流束および膜沸騰極小熱流束点温度を明確に特定できる状況になったので,プール沸騰系との違い等,従来にない伝熱工学的知見を得る実権を蓄積していく。 プローブ径が小さいため,冷却剤浸漬途上で停止させた場所での高速度ビデオ観察は行っているが,プローブを追従しながらプローブまわりの沸騰様相を観察することが本研究の主要な課題であることから,動画撮影システムの構築を行う。 安価な水の冷却特性は温度や溶存酸素なのど影響を受けやすく,水の冷却特性を明らかにすることも極めて重要な検討課題ではある。一方,熱処理業界では,冷却剤には水以外のポリマー水溶液等が使用される。冷却剤が安価ではないことから,冷却剤の繰り返し使用による劣化判断が重要であり,劣化診断に適用可能な試験システムを構築し,診断可能な冷却条件の探索を行う。 冷却実験の再現性が高く,安価で操作性が良い冷却特性評価システムの構築も課題であるため,あらゆる面で完成度の高い試験システムに仕上げる予定である。 本研究では,球プローブが円弧を描くように冷却剤中を移動する過程での沸騰熱伝達を調査することであったが,蒸気膜崩壊の不規則性を是正するには,冷却剤への垂直浸漬する方法が有効と考えられ,この方式での検討も進める方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 白金球プローブを追従して高速度ビデオ撮影するシステムを構築する予定で,高速度ビデオカメラをセットする高分解能サーボモーターと制御ドライバを購入し,一部追従撮影を行った。しかしながら,28年度に製作した白金球プローブの溶接部(白金球と白金パイプ)の脆弱性が判明して,再設計,再製作を行った。プローブ製作期間を利用して,試験システムの制御プログラムの改良も行ったため,当初の予算執行計画を変更せざるを得なくなった。 (使用計画) 白金球プローブを追従して高速度ビデオ撮影するシステムを構築する経費(主として制御ソフトの開発費),再製作した白金球プローブの溶接部の脆弱性は改善されたものの,熱疲労の懸念があり,プローブの耐久性を調査しつつ,再製作の必要があるかも知れないので,その製作費用とする。さらに,プローブの冷却材への浸漬方法として,垂直浸漬タイプの検討もしており,その装置の製作(ハードウェアと制御ソフトウェア)に充てることも検討している。
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