研究課題/領域番号 |
16K06141
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
太刀川 純孝 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 研究開発部門, 主任研究開発員 (90470070)
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研究分担者 |
齋藤 智彦 東京理科大学, 理学部第一部応用物理学科, 教授 (30311129)
桑原 英樹 上智大学, 理工学部, 教授 (90306986)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 宇宙機 / ラジエータ / 熱制御材料 / 熱光学特性 / 放射率 / 強相関電子系 / 金属-絶縁体転移 |
研究実績の概要 |
放射率可変素子(SRD:Smart Radiation Device)は、宇宙機表面に設置するラジエータとして使用する熱制御デバイスである。自身の温度によって自律的に赤外放射率が変化することにより、宇宙機の温度を自動的に一定に保つ働きをする。この機能により、低温時に必要となるヒータ電力を削減することが可能である。 本研究の目的は、SRDの性能向上のための材料探索である。具体的には、「はやぶさ」に搭載されたSRD材料「ペロブスカイト型Mn酸化物(ABO3:Aサイト=La,Sr,Ca、Bサイト=Mn)」が示す熱光学特性を上回る材料を見つけ出す。 今年度は、以下の2つの研究を実施した。 (1)昨年度に引き続き、ABサイト同時置換による電気・熱光学特性の向上を目指した。具体的には、試料作成を行い、電気伝導度測定、熱光学特性測定、さらに、硬X線放射光の光電子分光による電子構造測定等を行った。その結果、電気・熱光学特性については、「はやぶさ」搭載のSRD材料に近いか、部分的にはこれを超える材料は見出すことができているが、全温度領域で十分に上回る性能には至っていない。電子構造測定からは、Bサイト置換による電気伝導度変化が強磁性転移温度によって整理できること、即ち強磁性秩序を通じて電気伝導度が制御されていることを示唆する結果が得られた。 (2)Aサイト秩序型二重ペロブスカイトの作成を行い、熱光学特性の測定を開始した。従来問題となっていたAサイト秩序型二重ペロブスカイトが試料加工時に脆いという欠点を改善するために、ホットプレス法によって焼結密度を上げ、試料の加工強度の向上を試みた。その結果、作製条件を最適化することによって、従来約50%程度だった焼結密度を約80%程度まで向上させることに成功した。 しかし、現在までに、「はやぶさ」搭載のSRD材料を上回る熱光学特性を持つ材料は見つかっていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【当初予定】 H28年度は、ABサイト同時置換による電気・熱光学特性の向上を目指す。また、還元アニールによる相転移温度制御効果を試す。H29年度は、ABサイト同時置換による電気・熱光学特性の向上を目指す。また、試料加工強度を改善するために焼結密度を高めたAサイト秩序型二重ペロブスカイトのサンプルを作成し、その電気・熱光学特性を評価する。さらに、これらの特性のミクロスコピックな起源を明らかにするために、電子構造測定を実施する。 【実施結果】 H28年度は、還元アニールによる相転移温度制御効果について主に調べた。ABサイト同時置換による性能向上については、前年度までに作成したサンプルについて、新しい測定装置を用いて測定を行い、今後の試料測定のための準備を行った。H29年度は、ABサイト同時置換を行ったサンプルを作成し、電気・熱光学特性、および電子構造を測定した。また、焼結密度を高めたAサイト秩序型二重ペロブスカイトの作成を行い、一部のサンプルに対し、熱光学特性の測定を行った。 以上のように、当初予定にほぼ沿った形で実施しており、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
ABサイト同時置換による電気特性・熱光学特性の向上を継続して行う。また、Aサイト秩序型二重ペロブスカイトの電気特性・熱光学特性を測定し、評価を行う。
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