研究実績の概要 |
放射率可変素子(SRD:Smart Radiation Device)は、自身の温度によって自律的に赤外放射率が変化することにより、宇宙機の温度を一定に保つ次世代の熱制御材料である。太陽光が少ない低温環境で必要となるヒータ電力を削減することができる。SRDは、2003年に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ」に搭載され、軌道上において動作が実証された。しかし、今後の惑星探査ミッションにおいては、さらに大きな放射率変化が求められている。 本研究の目的は、「はやぶさ」に搭載されたSRD材料「ペロブスカイト型Mn酸化物(ABO3:Aサイト=La,Sr,Ca、Bサイト=Mn)」が示す熱光学特性を上回る材料を見つけることである。昨年度(平成29年度)までに、「Aサイト置換(Sr,Caドープ)で金属相を安定化、還元アニールで絶縁相を安定化」する方法と、「Aサイト置換で金属相を安定化、Bサイト置換(Gaドープ)で絶縁相を安定化」する方法を試してきた。ともに、低温側放射率の低下と絶縁体相の高温側放射率の増加により、放射率変化量を大きくすることが狙いであるが、今年度(平成30年度)は後者の方法を中心に試料を作製し、電気・熱光学特性、および電子構造を測定した。さらに、今年度は従来イオン半径が大きく結晶材料を得ることが困難であると考えられていたLa1-xBaxMnO3結晶の作製に取り組んだ。これは、イオン半径が大きなBaを使用することによって、バンド幅が大きくさらに少ないキャリア濃度領域の試料を作製することができることから、SRDの性能向上を期待した試みである。 残念ながら、現在までに「はやぶさ」搭載のSRD材料を上回る熱光学特性を持つ材料は見つかっていないが、比較的良質のLa1-xBaxMnO3単結晶試料を得ることができ、現在、本試料の熱光学特性測定を行っている。
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