研究課題/領域番号 |
16K06153
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
岩田 佳雄 金沢大学, 機械工学系, 教授 (90115212)
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研究分担者 |
小松崎 俊彦 金沢大学, 機械工学系, 教授 (80293372)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 振動 / 固有モード / 粘弾性 / 基底膜 |
研究実績の概要 |
人間の音の識別は、耳から伝えられた音によって蝸牛管のリンパ液内の基底膜が振動し、その周波数に依存して変化する基底膜上の最大振幅点の位置を感知することによって行われている。本研究ではより簡単な構造でこの原理を再現、周波数分析器となるセンサーを開発し、その後、人工聴覚への発展の可能性を考察するものである。 リンパ液の中で振動する基底膜の代わりとして、リンパ液を使わずに基底膜を厚くした粘弾性体を準備し、その弾性表面波を利用することを考えた。まずは固有モードの形状を調べるため粘性特性無しで様々な寸法比の基底膜状の弾性体についてモード形状を調べた結果、弾性表面波のモード形状では常に長さ方向の中央に最大振幅点が存在することが明らかとなり、また計画通りに弾性体表面の剛性を大きくして膜の振動に近付けることを試みたが、その最大振幅点が中央付近に存在する傾向を回避することはできなかった。基底膜の形をした周辺固定の板状粘弾性体の固有モード形状が基底膜の固有モードと同じ特性を示すことが明らかになったので、弾性表面波の利用を断念し、今後は板状の粘弾性体を使用して周波数分析器のセンサーを製作するとことした。 板状粘弾性体の固有モードの性質を実験的に確認するため、実験装置の製作に取り掛かった。加振方法には音響加振を採用することとし、音響箱を製作してその1つの面に固有モードの特性が既知である長方形の粘弾性板を設置して加振を試みた。結果、予想通りの固有モードが測定できたので、今後はこの音響箱の装置を使って基底膜の形をした板状粘弾性体の振動実験を行うこととした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度では基底膜と同様の振動特性を示す粘弾性体の弾性表面波の発生をシミュレーションによって確認することにあった。形状寸法を様々に変えてシミュレーションを行ったが、固有モードの最大振幅点の位置が周波数の増加とともに一方向に移動するという現象を再現することができなかった。当初の計画通りに粘弾性体の自由境界面の剛性を大きくして膜の振動に近づけることを試みたが、所望の振動特性を得ることができなかった。そこで弾性表面波の利用を断念し、周辺固定された板状の粘弾性体の固有モードを調べたところ、その最大振幅点が基底膜と同じように周波数に依存して一方向に移動することが明らかとなり、今後はこの板状粘弾性体を実験とシミュレーションの対象とすることにした。 一方で板状粘弾性体となる材料を探し求めた。基底膜ではリンパ液の適当な減衰によって固有モードの最大振幅点付近だけが大きく振動することを利用していると考えられ、板状粘弾性体の場合にもその粘弾性の程度が重要になる。そこで比較的減衰が大きい材料であるゲルを対象に、板状のものを多数購入して振動実験を行った。板状のものの全体を加振するには音による圧力変動を利用した音響加振が適していると考え、板状粘弾性体を音響加振するための音響箱を製作し、この1つの面に板状粘弾性体を設置して音響加振することにした。まずは固有モードが既知である矩形状で周辺固定された板状粘弾性体の音響加振実験を行い、粘弾性体が正常に音響加振を受けていることを確認した。そして購入した種々の板状のゲルから振動の大きさや固有モードの現れ方を観察し、実験に使用するゲル材料を2種類に絞り込んだ。 弾性表面波の利用はなくなったが、代わりに板状粘弾性体を使用することで目的の振動特性を再現できることを確認し、さらに粘弾性体の材料となるゲルを準備できたので、ほぼ計画通りに進展しているとみなされる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に準備した板状粘弾性体の素材を使用し、周辺固定された長さ約200mmの直線的な基底膜状のものを製作する。これを音響箱にセットし、音響加振により粘弾性体を共振させて固有モードの発生実験を行い、今年度購入予定の2次元レーザー変位計によって粘弾性体の長さ方向のモード形状の測定が可能であることをまずは確認する。つぎに音響加振の周波数を徐々に変化させて共振させ、2次元レーザー変位計により固有モードの最大振幅点と粘弾性体上の位置の関係を詳細に測定し、基底膜と同様の現象が起きることを確認する。ゲルや寸法を変えて同じ実験を繰り返し、加振周波数と最大振幅点の位置の関係が比例するなどできるだけ簡単な関係になる条件を見出す。 従来の実験やシミュレーションでは調和加振の場合がほとんどで、それ以外の加振波形についての報告は見あたらない。音を聞き分けるためには複数の調和成分の音を分別して測定することが可能である必要がある。これを確認するため、いくつかの周波数の混ざった加振波形による応答、ランダム加振による応答などを2次元レーザー変位計により測定し、周波数分析器としての可能性を評価する。 これらの音響加振実験の結果をシミュレーションでも再現し、板状粘弾性体のシミュレーションモデルを確立する。実験では粘弾性の特性を変えることが困難なので、シミュレーションによって振動特性の変化を確認することを試みる。シミュレーションモデルが確立すれば、将来の小型化に向けたシミュレーションの実施が可能となり、小型化の実現を目指すことができる。
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