研究課題/領域番号 |
16K06156
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
秋月 拓磨 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40632922)
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研究分担者 |
高橋 弘毅 長岡技術科学大学, 工学研究科, 准教授 (40419693)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 機械力学・制御 / 歩行動作 / アトラクタ / 記号化 |
研究実績の概要 |
本研究は,人の身体動作に内在するクセや習熟度の違いといった個人の特徴(個人性)に焦点をあて,その定量評価手法の構築と技能教育への応用検証を最終目標とする.これまでに身体動作の時系列データを相空間上に展開し,形成されるアトラクタを用いて動作の類似性を評価する方法を提案した.従来の行動センシングの研究では,身体動作の空間的な変動(振幅やその分散の変化)に着目し,それらの統計的なモデルをつくることで動作を認識したり個人を識別したりする方法が議論されていた.これに対して本研究では,身体各部の協調動作の様子をデータの位相差と振幅変化のパターンとして表現し,それを力学系理論におけるアトラクタの一種とみなしてモデル化した.さらに,モデルの係数を特徴量とした空間(記号空間)を定義し,この空間内で動作の類似性を議論できることを明らかにした.一方で,実際の運動データに対して提案する記号化手法を適用するには,相空間,および記号空間の次元数選択や相空間上に展開する時系列データの自動抽出など,いくつかの課題が残されていた.そこで本年度は,提案手法を実際の運動データに適用し,起こりうる問題を洗い出すとともに,その解決に向けた基礎検証を行った.対象動作には,日常生活の中でもっとも基本的な動作で,かつ人それぞれに固有の動き方やクセがある「歩行動作」を取り上げた.また,歩行動作の計測には,身体装着型の加速度・角速度センサを用い,これを被験者の四肢や腰部に取り付けた.このうち,個人識別に重要なセンサ(変数)をクラス分離度の観点から選択する方法,及びセンサの取り付け位置による影響を受けないよう加速度・角速度データを姿勢角情報に変換する方法を適用・検証した.また,選択された変数に基づき,相空間,及び記号空間を構成したところ,個人の判別に加えて,歩行速度などの運動状態の違いを記号空間上で判別できることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は,提案するアトラクタ解析法について,大きく以下の3項目を実施した.1)アトラクタ解析法の実データへの適用に向けた解析コードの開発と妥当性評価,2)運動時系列の次元削減手法の検討,3)実際の歩行動作データを用いた動作判別実験と既存手法との比較検証.以上の実施結果から,アトラクタを用いたデータ解析法について,実データへの適用にむけた足がかりを構築できた.また,これらの成果については,国際会議ICICIC2016,および第59回自動制御連合講演会などにて公表した.以上のことから,研究目的の達成にむけて,本研究はおおむね順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は,前年度の成果を受けて,アトラクタ解析法の拡張をすすめるとともに,応用検証のための身体動作データの収集をすすめる.
第一に,前年度に引き続き歩行動作を対象とし,構成された記号空間と個人特徴の関係を検証する.とくに記号空間を利用した被験者内/間での動作の違いについての定量評価法の検討をすすめる.具体的には,解析のサンプル数を増加させることによって空間内での係数の配置や分布を評価し,個人識別を行うとともに,各軸の大きさを因子分析して個人性の主因子を明らかにする.
第二に,応用検証のための運転動作データの収集をすすめる.運転動作のスタイルを一意に定義することは難しいが,経験を重ねるごとに危険な動作や無駄な動作を排除するよう動作の改善がすすむと考えられる.そこで,各被験者に DS 上のコースを複数回運転してもらい,習熟の過程をビデオ,および加速度・角速度センサで記録する.また,収集したデータから,経験に対する運転動作の変化を提案手法によって捉えられることを検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に導入を計画していた身体動作の計測設備(モーションセンサと同期計測可能なカメラ,および計測用ソフトウェア)について,機材構成を一部変更したことが次年度使用額の生じたおもな主な理由である.また,この変更は技術検証を目的として,機材一式のうち一部を試験的に先行導入したことで生じた.技術検証そのものは,研究計画の進捗に影響を与えることはなく,また検証結果に基づき残りの計測器材も平成29年度に導入予定である.
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に引き続き,本年度に予定している運転動作データの収集実験に必要な計測機材や消耗品,また実験被験者謝金や実験補助等の人件費・謝金を予定している.その他に国際会議への参加・発表等,研究発表および打合せのための旅費を予定している.
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