研究課題/領域番号 |
16K06167
|
研究機関 | 岐阜工業高等専門学校 |
研究代表者 |
熊崎 裕教 岐阜工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (70270262)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | ファイバブラッググレーティング / 低周波振動センサ / イオンエッチング / 光熱振動 / ビート周波数 |
研究実績の概要 |
従来型の振動センサでは耐電磁干渉性など使用環境に制約があり、適用範囲が限定される。一方、スマート構造体センサに適している光ファイバセンサの中でも波長変調型センサであるファイバブラッググレーティング(FBG: Fiber Bragg Grating)は電圧変動の影響を受けない絶対参照値(反射中心波長、ブラッグ波長という)を備えたセンサとして、歪み測定用や温度測定用として既に実用化されている。しかし、光スペクトラムアナライザのような光計測器のサンプリング速度は数Hz程度であるため、振動のような動的な計測にFBGをそのまま適用することは難しい。 そこで、本研究では、非対称断面をもつFBGを用いて低周波振動を光強度の変化として高感度に検出できる低周波振動測定システムの構築をめざす。FBGの反射波長の変化を利用して動的な計測を実現する方法としてレーザ復調方式、および光フィルタ復調方式による波長-光強度変換法が一般的な方法である。しかし、レーザ復調方式には温度変動の影響を受けやすく動作域が限定される問題点、フィルタ復調方式には検出感度が低い問題点があり、これらの問題点を以下の方法で解決する。具体的には、(1)非対称断面形状に加工したFBGを振動子センサとすること、(2)センサFBGとほぼ同等の反射特性をもつFBGを帯域光フィルタとして用いること、(3)予め、光熱により励振したセンサFBGに外部振動が印加されると生じるビート周波数を利用することである。イオンエッチングにより非対称断面に加工したセンサFBGの曲げ変位が増加するとコア(グレーティング部)に歪みが生じ、センサFBGの反射光スペクトルがシフトする。振動によってセンサFBGの反射光スペクトルのみが左右にわずか変化すると、結果として二つの反射光スペクトルの非重複部分に相当する光強度が変化し、フォトデテクタで検出されることになる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、システムの動作検証を目的としてセンサFBGに曲げを印加しながら、フィルタFBGを介して振動子FBGの反射光強度を測定した。センサFBGとフィルタFBGには近似の反射光特性を持つものを採用し,それぞれの反射中心波長及び半値幅は1549.0nm,1549.1nm,及び0.26nm,0.36nmである。また、センサFBGには、グレーティング部10mmを含む20mmの領域のクラッドに対してイオンエッチングを行い、加工部のクラッド厚さは約8μmである。センサFBG(長さ40mmの片持ち梁)の曲げ変位の増加に伴って8mm程度の変位までは反射光強度はほぼ直線的に減少し、センサFBGの反射光強度の変化を測定することで、振動を検出できる可能性が示された。 次に、センサFBGと参照用の市販リニア振動センサ(オムロン製:D7F-S03-05)をスピーカーに取付け、スピーカーにより各種周波数の振動を与えながら、センサ用FBGの反射光強度を測定した。さらに、周囲温度を変化させて同様の実験を行った。振動周波数を1Hz、20Hz、40Hzと変化させた場合、リニア振動センサの検出波形とは異なるものの、振動検出が可能であることが示された。40Hz以上の範囲では周波数の増加につれて、検出波形がスピーカーへの入力信号と不整合となる傾向がより強くなり、応答性に課題があることがわかった。その原因は振動子にあると考えられ、センサを短くする必要がある。一方、周囲温度を20~60℃まで変化させた場合には、その影響は見られず、温度変動に対して耐性のあるシステムであることが示された。FBGの反射中心波長は温度によって変化するが、振動子FBGとフィルタFBGを近傍に設置することにより、両FBGの反射中心波長の変化量をほぼ同じレベルに制御できたものと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
非対称断面をもつ片持ち梁形状のセンサFBGが静止した状態で外部振動を印加した場合(静止モード)、光熱により予め共振状態に励振したセンサFBGに外部振動を印加した場合(励振モード)について実験を行い、振動の測定精度等について比較を行う予定である。そのためには、まず、長さ数mm程度の複数のセンサFBGを製作し、共振特性(共振周波数及び半値幅)を測定する必要がある。具体的には、センサ用FBGのエッチング加工面にレーザ吸収用の塗装を施した後、FBGの根元をガラスマイクロキャピラリーで固定、接着し、片持ち梁形状のセンサFBGとする。センサFBGの塗装面に強度変調した半導体レーザ光を照射すると、センサFBGはその変調周波数で光熱振動することになる。半導体レーザ光の変調周波数を変化させながら振幅を測定することにより、センサFBGの共振特性が得られる。 励振モードによる実験では予め、センサFBGを共振周波数で光熱振動させておき、外部振動が加わった際の合成振動、ビート周波数から地震等に相当する外部振動を検出するものである。この方法のメリットとして、広範囲の周波数にわたり、高精度での振動検出が可能になることが考えられる。一方、単純に外部振動のみを測定したい場合は静止モードとして実験を行う。長さの異なるセンサFBGについて、静止モード及び励振モードにおける測定可能な振幅および周波数の範囲、また、振動の測定精度についても評価を行う予定である。期待する測定精度が得られない場合は、光検出器や信号処理方法についても、併せて検討を行うこととする。尚、外部振動の印加にはスピーカーに代えて新規で購入する小型加振器(ミツトヨ MES151)を用いる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初、本年度の購入計画にあった光スペクトラムアナライザについては予算範囲で購入できる中古品が見つからず、本年度中の購入を断念した。年度末近くになり、小型加振器の購入について検討したが、納期が間に合わなかったため、購入には至らなかった。
|
次年度使用額の使用計画 |
本年度分を次年度に繰り越し、次年度分予算と併せて購入可能な光スペクトラムアナライザ(中古品)があれば、購入を検討する。また、購入可能な光スペクトラムアナライザがない場合は、小型加振器などの購入に充てる予定である。
|