研究課題/領域番号 |
16K06168
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研究機関 | 徳山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
鈴木 厚行 徳山工業高等専門学校, 機械電気工学科, 准教授 (40450142)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 超音波振動 / 衝撃吸収 / 高張力鋼板 / CFRP / Blaha効果 |
研究実績の概要 |
自動車などが衝撃を受けた瞬間に車両を構成する素材に超音波振動を加えることで、変形抵抗を低下させ、衝撃吸収度を向上させる方法を考案した。これまでの研究では自動車に広く使用されている高張力鋼板(ハイテン)や今後の自動車素材として注目されている炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などに超音波振動を加えて衝撃力が低減することを確認している。本研究では、どの程度の衝撃が吸収できるか確認する。また、複数の振動子を接続した構造体および自動車のボンネットを保持する機構を想定した構造体を製作し、衝撃試験を行う。平成28年度に実施した主な研究内容を以下に示す。
(1)自動車に搭載することを考慮して超音波振動子を小型化し、CFRPの変形特性や衝撃軽減特性等について検討した。超音波振動子を小型化しても,超音波振動によってCFRPの変形抵抗が低減し,衝撃力も低減することを確かめた。衝撃力は最大で 58%低減した。また、超音波振動子の応答速度測定し、小型化することにより応答速度が速くなることを確かめた。さらに衝撃吸収特性を測定するために、試料の変形量を自動計測するプログラムを作成した。試料の変形量はリニアエンコーダからの値をパソコンに取り込んで計測した。
(2)コの字型構造体に3本の振動子をボルトで固定した衝撃吸収体を製作して落錘衝撃試験を行った。コの字型構造体は幅 40 mm、長さ 1500 mm、厚さ 2.3 mm の高張力鋼板を曲げて製作した。落下高さを 500 mmとし、衝撃印加後の変形量を測定した結果、超音波を印加した場合の変形量は落下方向に 11 mm であったに対し、超音波を印加しなかった場合は 8 mm となり、超音波を印加した場合のほうが印加しなかった場合に比べて変形量が大きいことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
衝撃吸収特性を測定する前に、自動車に超音波振動子を搭載することを考慮し、超音波振動子を小型化して衝撃力が低減するか確かめた。CFRPを試料にした場合、これまでの研究では直径 56 mm の振動子を用いていたが,本研究では直径 40 mm の小型振動子を用いて実験を行った。また、計画を一部早め、超音波振動子の応答速度を測定し、小型化の効果を確かめ、予定していた以上に研究が進展した。しかし、衝撃吸収特性を測定するために、試料の変形量を自動計測するプログラムを作成したものの、衝撃吸収特性の測定までは実施できなかった。衝撃吸収特性を測定するには衝撃用ロードセルの出力もパソコンに取り込んで自動測定する必要があり、準備を進めている。 これまでの研究で使用してきた試験片は全ての長さ 200 mm の平板であったが、実際に自動車に本技術を適用する場合には当然サイズは大きくなり、形状も異なる。また、これまでの研究では超音波振動子を試験片に押し当てているだけであったが、振動を効率よく素材に伝達するには振動子と素材が強く密着するように固定することが望ましい。本研究では、予定どおり高張力鋼板製のコの字型構造体に3本の振動子をボルトで固定した衝撃吸収体を製作して落錘衝撃試験を行ない超音波振動の効果によって変形抵抗が低減することを確かめた。 人体の頭部模型である頭部インパクター(ジャスティ製 ISO-A-CS)等を購入し、自動車のボンネットを保持する機構を模した構造体での実験装置の設計を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
衝撃用ロードセルおよびリニアエンコーダの出力をパソコンに取り込み衝撃吸収特性を測定する。試験片として使用する素材は高張力鋼板と熱可塑性のCFRPとする。振動子の直径は40 mmおよび 56 mmの2種類とし、それぞれどの程度の効果があるか確かめる。 コの字型構造体を用いて落錘衝撃試験を行う。衝撃力・吸収エネルギー量・スプリングバック量・錘の跳ね返り量などを測定し、超音波振動の効果を確かめる。直径 40 mmの振動子では効果が小さい場合には直径 56 mmの振動子を用いる。直径 40 mmの振動子で十分な効果が得られている場合には、更に振動子を小型化することも検討する。 自動車のボンネットを保持する機構を模した構造体を製作し、人体の頭部模型である頭部インパクター(ジャスティ製 ISO-A-CS)を衝突させる試験を行い、頭部損傷値がどの程度低減するか確認する。頭部インパクターを32 km/hでボンネットを模した装置に衝突させたときの衝撃の値を「死亡率10%以下」に抑えることを目標とする。また、高速度カメラで変形挙動および衝突物の跳ね返り量を撮影し、超音波の有無による違いを明確にする。もし、超音波振動の効果が小さい場合は、早い段階で振動子の接続方法を見直す。例えば振動子と変形させる素材の両方にラップ加工を施して実際の接触面積を増やし、接着剤を使用してボルトで締結してみる。 また、小さな超音波振動子でも効果が現れる素材を探し、どの程度の小型化が可能か検討する。熱可塑性樹脂を第1候補とし、まずは、剛性・硬度・耐衝撃性・曲げ疲労性など機械的特性のバランスに優れるABS樹脂で実験する。
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次年度使用額が生じた理由 |
治具用の金属板等を購入予定であったが、納期の関係で年度内の購入が難しかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
治具用の金属板等を購入する予定である。
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