近年,電子や創薬等の産業分野,特に次世代の3Dプリンターやオーダーメイド創薬において,高精度の乾式粉体操作(搬送や分級)が要求されている。しかしながら,固体でありながら液体や気体のように振舞うことが可能な粉体の正確な操作は難しい。特に,数百μgから数mgオーダーの微量な粉体の乾式輸送は汎用のコンベアやブロワーを単純に小型化しただけでは不可能である。そこで,我々は構造が非常に簡単で製作が容易な弾性表面波(SAW)デバイスに注目し,導体を対象とし粉体輸送用のSAWアクチュエータの基礎的研究を行ってきた。しかし,上記の分野分野においては,導体のみならず誘電体粉を操作することが求められている。そこで本研究では,SAWアクチュエータによる誘電体粉の乾式輸送特性を調べた。その結果,水平状態では輸送できなかったそれらの粉体もSAWアクチュエータ自身を傾斜させること,つまり重力を利用することで輸送可能となることがわかった。この結果を基に,SAWアクチュエータの実用および製品化を考え,粉体貯蔵用ホッパーを取り付けて小型のSAWフィーダーを製作し,その切り出し特性を調べた。その結果,1粒子単位の抽出とまではいかないものの,今までに不可能であった数mgオーダーの微細粉体(粒径100μm)の切り出しに成功した。更に,SAWアクチュエータの応用分野として惑星生命探査での利用について検討した。この結果,SAWには粉体粒子の操作だけではなく液体攪拌と温度上昇の効果もあり,電気化学分析と組み合わさることで分析感度が上昇することがわかった。
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