研究課題/領域番号 |
16K06196
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
亀崎 允啓 早稲田大学, 理工学術院総合研究所, 主任研究員(研究院准教授) (30468863)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ヒューマンマシンインタフェース / 操作型機械システム / 操作支援 / 操作ゲイン / 人間機械システム / 操作性 / 使いやすさ |
研究実績の概要 |
平成28年度に行ったBIOG調整のためのパラメータや調整メカニズムに関する分析結果を踏まえ,平成29年度は,人間機械系における入出力操作ゲイン調整における課題であった「使用条件の時変性」,および「人間の機械操作に対する学習機序」を考慮したBIOGの自動調整システムの具体化をおよび評価実験を行った. 具体的には,操作量ヒストグラム波形を正規分布波形に近づける共通の調整規範を提案した.長時間の作業により構成される各種データのヒストグラム波形は,局所的な変化には大きく影響を受けにくいと考えられることから,BIOGの調整前後で速度ヒストグラム(スレーブシステムの動作出力側)は保持されるという仮説を立てられる.この仮説に基づき,各波形における差分を埋めるための簡単な面積変換を行うことで,BIOGの調整量に応じた操作量ヒストグラム移動量を定量的かつ一意に推定することができる.操作量ヒストグラム波形を正規分布波形に一致させたときのBIOGが,調整後の新しいBIOGとなる.この調整ルールを数式化することで,駆動関節軸単体での単軸基本規範を構築した.このとき,機械操作に対して違和感を与える可能性のある,極端に急峻な傾きや変傾点前後での急激な傾き変化を避けるため,適切な定義域の設定と違和感を低減するための補正規範を新たに開発した. 開発したBIOG自動調整システムを評価するために,実機を利用した長時間作業による評価実験を行った.評価タスクは,高速動作が求められるボールの運搬と微細操作が要求されるブロックの積み上げとした.速度制御型のマスタスレーブを利用した実機実験の結果,BIOG調整によってヒストグラム波形が目標基準波形に整形されること,作業効率が向上すること,主観的な使いやすさが向上することがそれぞれ示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は,平成28年度に行ったBIOG調整のためのパラメータや調整メカニズムに関する分析結果を踏まえ,BIOGの自動調整システムの具体化と評価実験を行った.本年度の成果は,BIOG調整システムを以下に示す汎用的な制御問題として捉えることができた点である.大局的傾向を捉えられる「制御量」を,操作性・作業性が改善されると考えられる「目標値」へ近づけるための「調整規範」に基づき,「操作量(BIOG)」を調整するというものである.実機を用いた長期間作業にて評価実験を行い,BIOG調整によってヒストグラム波形が目標基準波形に整形されること,作業効率が向上すること,主観的な使いやすさが向上することを示した点も重要な成果である.また,ヒアリングの結果,BIOG調整に気付いた操作者はおらず,調整によって操作に違和感を覚えるものはいなかった.以上より,提案したBIOG調整手法は簡易的であるもの,人間機械システムにおけるI/Oゲイン調整の要求機能を満たし,作業性および操作性の改善に寄与することが示唆された.実験では,速度指令型ジョイスティックによる油圧マニピュレータの操作を対象にBIOG調整システムの開発を行ったが,基本的な考え方は,その他のHMI(例えば,マスタ・スレーブシステムであれば,操作ヒストグラムをある基準波形に合わせこむように,マスタアームの入力変位に対するスレーブアームの変位量を調整可能)においても応用できると考えている. これらのことから,基本的かつ汎用的な調整規範のフレームワークは理論レベルから実装レベルまで順次構築できており,また,その有用性を実験から定量的に確認することができた.また,平成29年度で取り組むより高次の個人適合型調整システム開発に有用となる成果を得ることができた.以上から,当研究課題は順調に進捗しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
傾向を捉えるデータの時間長,ヒストグラムの階級数,BIOGの調整粒度などのシステムパラメータが固定の状況では,性能向上の最大化が図れないことが予想される.そこで,調整前後の操作量・速度ヒストグラム,およびBIOGと作業結果から,システムパラメータを調整する学習規範を開発する.変更量履歴の時系列分析からフィードフォワードを行い,誤差低減および解の安定化を図ることを考えている.このとき,基準波形の調整,BIOG形状の多次元化が必要になると考えており,探索する空間が膨大に大きくなることから最適化計算を用いて対処する予定である.また,調整済BIOGに対して必ずしも人間側の順応が得られるわけではないため,操作者側からの適応を促す仕掛けを実装する.目標値と大きくずれる操作領域における操作改善を,作業状況とあわせた情報支援として提供することを考えている.平成29年度では,駆動関節軸単体での単軸基本規範を構築しているため,駆動軸間の関係性(手先の移動ベクトル)を考慮した複軸協調規範についても開発を行う.ここでは,操作履歴を移動ベクトル単位で捉えることで,これまで開発してきた規範を拡張することで比較的容易に対応できると考えている. 平成29年度に行った1次評価実験から得られた知見,および,上記で開発する調整システムを統合して2次最終実験を行う.実機を利用した長時間作業(例えば,1日4時間の作業データで調整し,10日間連続で実施)による評価実験を行う.様々な作業機械,種々の特性を持つ作業群,素人から熟練操作者まで幅広い被験者に参加頂くことで,汎用性を評価する.また,脳波計・視線計測装置(精神的・認知的負担)や筋電計・モーションセンサを利用し,操作者の使いやすさを多元的に評価する.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)物品費(精神的負荷や身体的負荷を計測するための計測装置)とそれに伴う諸経費の未使用により,次年度使用額が生じている.より基礎的な評価を重点的に行うために,より踏み込んだ解析を行うために必要となる上記計測装置の購入を平成29年度は見送った. (使用計画)平成30年度の後期に行う2次最終実験では,見送った計測装置を利用するため,平成30年度前期に,計測装置の仕様再検討を行い,購入を行う予定である.平成30年度に当初計上していた経費についても計画通り,購入を行う.
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