研究課題/領域番号 |
16K06220
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
舟木 剛 大阪大学, 工学研究科, 教授 (20263220)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 電圧型変換器 / 数式モデル / 動特性 / 安定性 / スイッチング関数 / 瞬時値 / 実効値 |
研究実績の概要 |
欧州における北海の洋上ウィンドファームからの電力輸送及び欧州電力システムの信頼性と安定性の向上などを目的として,複数の自励式変換器を直流送電網で相互接続する多端子直流送電システムの導入が計画されている。このように,自励式変換器を用いた多端子直流送電システムの既存交流電力システムへの導入が進められている。多端子直流送電システムの設計,解析,及び制御において,システムの動特性を記述する数式モデルの構築について検討を行った。電力システムの解析において用いられてきた発電機,電力変換器,変圧器ならびに送電線などの要素毎に動特性を詳細に記述した数式モデルに加え,動特性の背後にある物理的なメカニズムを抽出したシンプルな数式モデルの構築について検討を行ってきた。特に,多端子直流送電システムの計画および制御において物理的解釈及び系統的設計への展開を可能とする数式となるようモデルの構築を行った。変換器の制御入力をスイッチのオン時間と初期位相により表すモデル化を行った。導出した数式モデルの妥当性について,数値シミュレーションにより検証を行った。交直混在システムとして直流送電線は,線路抵抗ならびに線路リアクタンスで構成されたモデル化を行い,中性点が同容量の平滑コンデンサで接地されているものとしてモデル化を行った。交流送電線については,送電線の短絡容量としてモデル化を行い,故障点位置や不平衡故障,故障時間,出力変動幅をパラメータとした解析条件を設定した。数値解析と並行して,購入したNI-PXI を用いたインバータの制御系を構築し,消耗品で購入したパワーデバイスおよびトランス・コンデンサを用いて主回路を作成したミニモデルでの,数値解析の検証を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実効値解析用の電力変換器のモデル化では,解析対象の一機系統の各構成要素の微分代数方程式をもとにモデル化し,三相交流の正相分に対する伝達関数としてあらわしたモデル化を行った。正相分を対象とした現象の解析では,発電機等の系統に接続された機器の応答に支配されるため,半導体電力変換器制御系のサンプリングに対して十分遅い現象となるため,変換器のデジタル制御系はアナログ制御系に等価変換して解析に用いており,解析結果よりその妥当性を担保することができた。得られた結果については電気学会電力・エネルギー部門大会で発表を行った。瞬時値解析では,変換器制御系のモデルはそのままミニモデルの変換器制御系に適用できるため,制御演算の構造を変えずにミニモデル制御系に実装した。ミニモデルにおける系統連系インバータの主回路は,SiC やGaN といったワイドバンドギャップ半導体デバイスの開発を見据えたパワーMOSFETを用いた回路となっており,将来の電力系統に使用される機器にも対応可能なものとすることが出来た。また変換器制御系はLabviewをベースに構築・開発し,タイミングクリティカルなハードリアルタイムが必要となる部分にはFPGAを用いた論理回路による実装を行った。この部分については整数演算となるような変数およびパラメータの表現を行った。変換器全体の制御安定度に影響する周波数領域の部分についてはDSPを用いた浮動小数点演算による実装を行った。これにより安定度計算には十分な位相余裕,ゲイン余裕を得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
瞬時値や実効値での数値解析で用いるモデルの妥当性を,構築したミニモデルの実験結果との対比を行い,数値解析において考慮されていない要素の解析結果への影響を評価する。具体的には系統連系インバータの実効値解析モデルについて,過渡安定性に対するミニモデルでの実験結果や瞬時値解析結果に対する適合性を評価し,モデルを一般化していく。また解析結果をもとに,系統連系インバータの過渡安定性を向上する制御方式について検討していく。従来の同期発電機では過渡安定性を保証するために臨界故障除去時間が制御指標として用いられてきたが,系統連系インバータでは同期発電機における回転子の加速脱調に相当する現象は生じないため,線路潮流変化により生じる電圧位相の変化に追従するPLL およびインバータの電流制御系の動作によるインバータの内部状態を過渡安定性動作として評価する。すなわち,インバータ主回路に用いるパワー半導体や受動素子は定格値を超えて使用すると破壊もしくは寿命が著しく低下することから,インバータの出力電流および回路電圧の最大値を過渡安定限界とした指標で評価する。また再生可能エネルギーの発電出力を有効に利用することが望まれることから,二次電池や電気二重層コンデンサを用いた出力変動補償が検討されているが,これらの要素を利用した過渡安定性維持方式を開発する。換言すれば,再生可能エネルギーの大量導入に対する影響を低減するために用いられる電力貯蔵要素を,出力変動補償に加え系統故障に対する過渡安定性向上の要素として,過渡的な電力・エネルギー分担により同期運転を維持しつづけ,FRT に対応した高速な出力回復が可能であることを示す。数値解析では,複数の系統連系インバータが系統連系された条件についてもユースケースを設定して解析を行い,擾乱時におけるインバータ間の相互作用および過渡安定性について評価をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は数値解析シミュレーションを前半に行い,実効値解析モデルと瞬時値解析モデルとの比較検討を行った。計算機シミュレーションは既存のPCを用いて実施した。後半でNI PXI System一式を導入し,これを用いたリアルタイムハードウェアシミュレーション系の構築を行った。制御システム構築に必要なソフトウェアLabviewについては,大学で取得しているサイトライセンスを利用し,この費用は運営費交付金を支弁に充当した。NI PXI Systemを用いたリアルタイムシミュレータでは変換器モデルの構築およびその妥当性の検証を行った。送電線路等の外部回路を接続したHILSのミニモデル実験による検証は平成30年度に実施するため,そのインターフェース部分は消耗品で購入する電子部品等で作成する予定であり,このため平成30年度に十分な部材の購入が可能となるよう費用を一部残している。
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